パラレル
□My precious one *
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「いやあ、これは滅多にない代物ですぜ、旦那」
店主は、にこにことしながら説明を続ける。
「まずは腕力。大抵のものは持ち運べます。
それに従順。文句一つ言わずに、言われたことはしっかりやりますよ。
それから剣も使えますんで、用心棒としても使えます。しかし一番は…」
店主はにやりと笑って、俯いていた奴隷の髪を掴み、その顔を上げさせて続けた。
「やはり、顔でしょうな。これだけ綺麗な顔の商品はなかなか見つかりませんぜ」
その言葉の通り、その奴隷は綺麗な顔をしていた。
ぱっちりとした目に、まっすぐに通った鼻筋。
それに、気の強そうな、それでいてどこか憂いを帯びているような、深い碧の瞳。
うっかりしていると吸い込まれてしまいそうなその瞳に見惚れているサンジを
店主の声が現実に引き戻す。
「荷物持ちとしてもよし、用心棒としてもよし。
もちろん、鑑賞用としてもオススメです。どうなさいますか、旦那?」
「どうする、サンジ。話を聞いたところだと、なかなか良さそうだが…」
サンジは少し考えて、それから答えた。
「こいつに決めた。ジジイ、こいつにしてくれ」
「よし、決まりだ。ご主人、代金は?」
ゼフが尋ねると、店主はこれ以上ないほどの愛想笑いを浮かべた。
「お買い上げ、ありがとうございます!
お代は、銀貨50枚−と言いたいところですが、今日は大サービス。
銀貨45枚でいかがでしょう」
「よし、買った。じゃあ、そいつの縄を解いてくれ」
「かしこまりました」
そう言うと、店主は奴隷を柱に繋いでいた縄を解いて、その先をゼフに差し出した。
「どうぞ、旦那」
「ああ、その手首の縄も解いてくれ」
「…は?」
店主が怪訝そうな表情になる。
奴隷は逃げ出さないように、縄で繋いで連れて帰るのが普通なのだ。
「いや、あの…旦那?」
「私は奴隷を縄で引いて帰るのが嫌いでね」
「はぁ…逃げても保証はしませんが…」
「構わんよ」
ゼフのきっぱりとした態度に、店主は訳が分からない、といった表情で、黙って奴隷の縄を解いた。
「どうも。面倒をかけるね」
「いえ…」
「銀貨を2枚余分に払っておくから、それで勘弁してくれ」
そう言って、ゼフは連れていた自分の奴隷に銀貨を差し出させる。
「これが代金…銀貨47枚だ」
「ありがとうございます」
店主が頭を下げると、ゼフは頷いて、先に立って歩き出す。
「ほら、チビナス。行くぞ」
未だぼんやりとしていたサンジは、ゼフの声ではっと我に返る。
「っ〜チビナス言うんじゃねぇ!」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く来い。てめぇの奴隷も忘れんじゃねぇぞ」
そう言って、ゼフはさっさと先に行ってしまう。
サンジは慌てて後を追いかけようとして、ふと隣にいる奴隷の存在を思い出した。
その奴隷は、縄が解かれた手首を、不思議そうに眺めていた。
よほど長い間縛られていたのか、手首には赤い跡が残っている。
痛々しいその跡に、サンジは思わずそっと手を触れさせた。