その1
□Little Happiness
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爽やかな午後の風が吹き抜ける。
仕事が一段落したサンジは、ナミの蜜柑畑で昼寝をしているゾロのもとへ向かった。
蜜柑の木にもたれ、気持ち良さそうに寝息を立てている隣に、サンジは腰を下ろして、その整った顔立ちを眺める。
緑の髪を優しく撫でると、不意にゾロの口が開き、ふっと微笑んだ。
サンジは少し驚いて手を止める。
「ゾロ、起きてんのか」
そう尋ねても、返ってくるのは寝息ばかり。
ん…と、何かを呟いたようだが、何を言ったのかわからなかった。
「お前、何か夢見てんの?」
だとしたら、ゾロは一体どんな夢を見るのだろう。
俺が出てきたりはしないだろうか。
そんなことを無意識に考えた自分に、サンジは思わず苦笑した。
いつの間に、自分はこの男にこんなにも夢中になってしまったのだろう…
頭の後ろで組んでいたゾロの左手が、ぽすり、と落ちる。
その手にそっとサンジが指を絡ませると、少しだけ汗ばんでいた。
でも、サンジが絡めた右手も同じくらい温かくて。
そのままゾロの横顔を見上げると、何となくサンジは口元が寂しくなった。
だから、サンジは煙草を取り出そうとしたけれど、やめた。
その代わりに、ゾロの唇にそっと自分の唇を合わせた。
「…好きだぜ、ゾロ」
その言葉は、ちゃんとゾロの心に残っているのだろうか。
少なくとも、とサンジは思った。
少なくとも、ゾロがたまにくれる「愛してる」の言葉は、自分の胸に残っている、と。
そのたまの一言だけで、サンジはゾロを愛し続けられるのだ。
昨日も今日も、明日も明後日も、きっと来年だって再来年だって、サンジはゾロのことが大好きなのだと思う。
たとえ生涯離れてしまっても、互いに終わりが来たとしても。
それは揺るがない事実なのだ。
改めて、サンジは隣で眠っているゾロの顔を見上げる。
その顔は、あまりにもあどけなくて。
サンジは、ふっと微笑んだ。
きっと、こんな何でもない時間が幸せなのだと、サンジは思う。
かけがえのない、今の幸せなのだ、と…
サンジはジャケットから懐中時計を取り出して、時間を確認した。
まだ夕食の準備をするには早すぎる時間だった。
それならば、ここで少し休むのもいいだろう。
「あんたの隣にいたら、あんたの夢、見れるかな…」
頭を撫でながらそう呟くと、ゾロがまた笑った気がした。
サンジはそのままゾロの肩に頭をもたせ掛け、そっと目を閉じた。
愛しい剣士が、夢に現れてくれることを願いながら。
END
→あとがき