その1
□風引きコックさん
1ページ/5ページ
サンジが、風邪を引いた。
それは、つい2時間ほど前のこと−
昼食を食べ終え、ゾロが筋トレの続きをやっていた時。
「ゾローっっ!!」
慌てた様子のチョッパーが、ピョコピョコと可愛らしい足音を立ててゾロの方へ走ってきた。
体が小さいので、全速力で走ってもそんなに速くはなく、急いでいるのだかなんだかよくわからない。
そこがかわいいところでもあるのだが。
「なんだ、どうしたんだ?チョッパー」
「ゾロ、サンジが…サンジが大変なんだ!!」
「はあ?」
サンジが大変…?
さっきまで一緒に昼食を食べて、ルフィと格闘してたのに?
ゾロが首を捻っていると、チョッパーは切羽詰まった様子でゾロに言った。
「すごい熱なんだ。いいから早くキッチンに来て!!」
熱…??
そういえば、昨日あたりから食欲がないとか言ってあんまり食べてなかったっけか…
そんなことをぼんやりと思ったゾロだったが、とにかく来い、とチョッパーに急かされて、とりあえずダンベルを置いてキッチンへ向かった。
「サンジ!!」
キッチンのドアを開けると、そこには椅子に座ってテーブルに突っ伏しているサンジの姿があった。
「コック…?」
ゾロが腕に触れると、服の上からでも感じることができるほどに身体が熱くなっているのが分かった。
「どうして…」
「分からないよ。ただ、ここだと診察ができない。ゾロ、サンジを簡易ベッドに運んでくれないか。ほら、ゾロがいつも怪我した時に寝るやつ」
「お、おう」
チョッパーに言われ、ゾロはサンジに声をかけた。
普段はわりとのんびりしているチョッパーだが、患者を目の前にした時と、身の危険を感じた時は、急にテキパキしだす。
(後者は『テキパキ』というより『素早い』だが)
「おい、コック。立てるか?」
「…ゾ……ロ…?」
サンジは弱々しくゾロの名前を呼んだ。
ゾロはもう一度サンジに尋ねた。
「今からてめぇをベッドに連れていく。立てるか?」
「大丈…夫…だ……大したこと…ねぇから…」
そういうサンジは息が荒く、全然大丈夫な声ではない。
「大丈夫じゃねぇじゃねぇか。ほら、俺の肩に掴まれ」
ゾロはサンジの右腕を自分の肩に掴まらせ、サンジの体を椅子から立ち上がらせようとした。
…が。
ガタン!!
サンジの体は椅子から離れると、一気に崩れ落ちた。
「コック…?おい、大丈夫か、コック!!」
声をかけても返事はなく、ただ荒い呼吸が聞こえるだけだった。
どうやら、気を失ってしまったらしい。
きっと、精神力も限界だったのだろう。
「…無茶しやがって」
ゾロはサンジの体を抱き抱え、簡易ベッドへ運んだ。