その1
□サラダ記念日
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「なあ、ゾロ」
「ん?」
いつものように、2人で酒を飲んでいたある夜のこと。
サンジが、ゾロに尋ねた。
「今日、何の日だと思う?」
そう聞かれて、ゾロは首を捻った。
今日は、誰かクルーの誕生日ではないし、クリスマスとかバレンタインとか、そういうイベントがある日でもない。
一体何の日だったかと、手にとったつまみのことも忘れて必死に考えているゾロを見て、サンジは笑った。
「知るわけねぇか。あんた、自分の誕生日も忘れるもんな」
「うるせぇ。興味がねぇんだよ」
ゾロは手のつまみを口の中に放り込み、グラスのワインを煽った。
「…で、結局何の日なんだ?」
サンジは、空になったゾロのグラスにワインを注ぎながら答えた。
「今日はー、サラダ記念日」
「…は?」
全く意味がわからない、という顔で、ゾロはサンジを見る。
「そんな日、知らねぇぞ」
「そりゃそうだ。俺が勝手に作ったんだから」
「……」
沈黙したゾロの前に、サンジがコトリと皿を置いた。
その上には、水菜やら大根やらの和風サラダが盛り付けてあった。
「このサラダ、覚えてねぇ?」
そうサンジに聞かれても、ゾロにはいつもと同じサラダにしか見えなくて。
「いや。いつもと同じサラダだろ?」
と言うとサンジは、そうだよなぁ、と笑った。
「けどあんた、このサラダ好きだろ?」
「まあ…な」
「このサラダな、ゾロが始めて美味ぇって言ってくれた料理なんだぜ?」
そう言われても、やはりゾロは意味が分からなくて。
「美味ぇって、俺いつも言ってるぜ?」
ゾロがそう言うと、サンジは黙って首を振った。
「それは、俺が美味いかって聞いたときだろ?そうじゃなくて、俺が聞く前にゾロが美味いって言ってくれたのが、このサラダなんだよ」
そう言って笑うサンジは、すごくすごく嬉しそうで。
「そんなに…嬉しいかよ」
「嬉しいさ。好きな奴に、自分の作った料理を美味ぇって言ってもらえるのって、すげぇ嬉しいもんだぜ?」
そんな嬉しそうなサンジに、ゾロは、あほか、と呟いた。
「それだけで記念日作るとか、お前あほだろ」
すると、サンジは少し意地悪そうな笑みを浮かべ、ゾロの耳元に口を寄せた。
「そうかもな。でもそれくらい、俺はあんたに夢中なんだぜ?」
恥ずかしげもなく言い切ったサンジに、ゾロは思わず顔を赤くして。
サンジは手元にあったフォークでサラダをとり、ゾロに差し出した。
ゾロがそれを手で受け取ろうとすると、サンジは首を振った。
「お口開けて?」
「いやだ…ぁが!?」
サンジはゾロが僅かに開いたその隙間に、フォークを押し込んだ。
ゾロの口の中に、プチトマトの甘味と酸味、それにドレッシングの胡麻や醤油の風味が広がる。
その味は、紛れもなくゾロ好みの味で。
「…美味ぇ」
「そりゃどうも」
サラダを飲み込んで、ワインを一口飲んでから、ゾロは口を開いた。
「俺は…てめぇの作るもんなら何でも美味いと思ってる」
「…どしたの、ゾロ?」
サンジが不思議そうに聞いてきたけれど、ゾロは構わず続けた。
「だから…いつも俺が美味いって言う前に、てめぇが美味いかって聞いてくるから…」
だから、適当に美味いと言っているように聞こえるかもしれない。
でも本当はそうではなくて、サンジが美味いかと尋ねても尋ねなくても、ゾロは美味いと答えると、そう言った。
言い終えるとゾロは、喉が渇いてグラスを手に取った。
すると、グラスに映ったサンジと目が合って。
ゾロが思わず隣を見ると、赤くなったサンジがいた。
「っ…何でてめぇが赤くなってんだよ?!」
「いや…だって……ゾロが俺を口説くから…」
「はあ?俺がいつてめぇを口説いた…っ」
サンジの唇が、軽くゾロの唇に触れた。
途端、ゾロもまた頬を染めて。
「もう…ゾロ、可愛すぎ」
そう言ったサンジの顔は、既にいつもの色に戻り、瞳の色は、何やら妖しく光っていた。
身の危険を感じたゾロは、椅子から立ち上がろうとしたが、あっさりとサンジに手首を掴まれる。
「おい…」
「今夜もいっぱい愛してあげる♪」
「〜〜サンジ!!」
必死の抵抗も虚しく、その夜も無事サンジに目一杯愛されたゾロであった。
END
→あとがき