その1
□満月の夜
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夜。
甲板には、2つの人影があった。
ほかのクルーたちはとっくに寝静まり、起きているのは、ゾロとサンジの2人だけである。
2人はくだらない会話をしながら、のんびりと酒を楽しんでいた。
サンジはこんな時間が好きだった。
昼間だと、何かとケンカになってしまう2人だが、何故か夜になると、お互いに素直になれる。
ナミとかルフィとか、周りの視線を気にする必要がなくなる、というのも一つの理由かもしれない。
ゾロの話に適当に相槌を打ちながら、サンジがふと空を見上げると、そこには綺麗な満月があって。
サンジは、ゾロに想いを伝えた夜のことを思い出した。
***
あの夜も、今日と同じくらいに綺麗な満月で。
波に揺れる船の上で、サンジは静かに想いを打ち明けた。
OKの返事が返ってくるなんて思っていなかった。
むしろ、キモいとか冗談とか、そういう言葉を返されると、そう覚悟していた。
だから、困ったような表情をして、顔を真っ赤に染めたゾロを見たとき、サンジは驚いた。
ゾロはしばらく黙っていたが、やがて、小さく、でもはっきりと頷いた。
その瞬間、サンジは無意識のうちにゾロを引き寄せていた。
ゾロはやめろ、と言って暴れたけれど、ギュッと力を込めてサンジが抱きしめると、諦めたように力を抜いた。
初めてちゃんと触れたゾロの身体は、サンジの身体よりも熱く、心臓がうるさく脈打っていて。
そうゾロに囁けば、ゾロは
「…うっせ。てめぇもだ」
と横を向いたが、その腕はサンジの背中に回されていた。
それから2人は、ほぼ毎日こうして酒を飲むようになった。
今日のように甲板で月を眺めることもあるし、キッチンで座っていることもある。
どちらかが不寝番の日は、二人で毛布に包まって過ごした。
場所なんて、2人にはどうでもよかった。
2人でのんびりと時を過ごせれば、それで満足だったのだ。
***
そんな2人の関係を知ってか知らずか、ナミは最近島でサンジが買い出しに行く時は、
ほぼ必ずゾロを荷物持ちとして付き合わせた。
ナミの言い分は、
『ゾロが一番力があって、一番荷物が持てる』から。
サンジはナミには弱いから、
「ナミさんが言うなら仕方ないですね♪」
なんてご機嫌な様子でゾロのところにやって来て、
「ナミさんのご指名だ。買い出しに付き合いやがれ」
と、マストにもたれて寝ているゾロの頭に踵落としを食らわせる。
「う…」
ぴくりと身体が動いて、蹴られた箇所を手でさすりながら、ゾロが目を開けた。
気持ち良く寝ていたところを起こされて不満なのか、蹴られたのが痛かったのか、ゾロはむすっとして顔をしかめている。
その顔のまま、ゾロがサンジを見上げると、サンジはにっと笑ってゾロに囁いた。
「デートだ」
途端、ゾロは顔を赤くして。
サンジはそんなゾロの手を引いて、買い出しに向かった。
***
船を降りたゾロは、いつもにも増して早足で。
「おい…ちょっと…ゾロ?…何、急いでんだよ」
「…別に」
そんな会話をする間にも、ゾロはどんどん先に行ってしまう。
サンジは慌てて、ゾロの左手を掴まえた。
「…何だよ」
いきなり手を掴まれたゾロが、口を開いた。
「てめぇが…どんどん先に行っちまうからだろーが」
サンジは、少し乱れていた呼吸を整えてから続けた。
「何でそんな不機嫌なんだよ。…俺と一緒が、そんなに嫌かよ?」
「っ、そうじゃねぇ…」
ゾロはそう呟くと、目を逸らして俯いてしまった。
だったら何なんだ、と聞こうとしたサンジだが、ゾロの顔を見て、口を閉じた。
赤く染まったその顔には、十分にその答えが表れていたから。
サンジは少し驚いた表情をしたが、やがてふっと微笑んだ。
「行こうぜ?」
そう言ってサンジがゾロの手を引くと、今度は大人しくサンジについてきた。