その1
□幸せ談議
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午後の風が、ゾロの髪を揺らす。
遠くでサンジがナミとロビンを呼ぶ声がした。
きっと、おやつの時間なんだろう。
ルフィたちがキッチンへなだれ込んでいる音がする。
おそらく中では、熾烈なおやつ争奪戦が展開されているんだろう。
大半はルフィの腹の中に納まっているのだろうが。
たぶんルフィは、ゾロの分なんて考えずにすべて食べてしまっている。
しかし、ゾロにとっては関係のないことだった。
ゾロの分のおやつは、サンジが別に持ってきてくれる。
ゾロとしては別におやつを食べられなくたって気にしないのだが、サンジはゾロに食べさせたいらしいのだ。
しかもサンジは、ゾロがどこにいても、必ずゾロがいる場所にやって来る。
曰く、『愛の力』らしい。
ゾロはあほらしいと思うのだが、サンジの方は半分本気なようで。
その証拠に、今日もサンジがやって来る気配がした。
***
ガサガサと音を立てて蜜柑の葉を掻き分けると、サンジは木にもたれてまどろんでいるゾロを発見した。
「まーたこんなとこで寝てやがる」
目の前にしゃがみ込んで、
起きてんだろ?
と言っても、ゾロは目を開けなくて。
「起きねぇんなら、ちゅーしちゃうぞ?」
それでもゾロは微動だにしない。
サンジはにやりと笑って、ゾロの唇を塞いだ。
しばらくそうやっていると、息苦しくなってきたのか、ゾロの口から、ぅ…という微かな声が漏れる。
それでも構わずにキスを続けていると、ゾロの手によって引きはがされた。
「おはよ、ゾロ」
目、覚めた?
と笑顔で尋ねれば、ゾロはほんのり赤い顔をして。
「…もっとましな起こし方はねぇのか、エロコック」
「ん、じゃあ今度は舌入れてあげよっか」
「…あほ」
ため息をついて外方を向いたゾロに、サンジはおやつの皿を差し出す。
「ほら、今日のおやつ」
目の前に差し出された皿の上には、たっぷりのメープルシロップがかかったホットケーキが乗っていた。
ゾロは黙って皿を受け取ると、ホットケーキを一切れ口に入れた。
「ど?」
「甘ェ」
「だろうな」
「…でも、美味ェ」
「っ…」
まったく。
何でこの男はいつもこうなのだろう。
無意識にサンジの喜ぶようなことを言い出すから、サンジは余計にドキリとさせられるのだ。
黙り込んだサンジに、ゾロは怪訝そうな顔をする。
「…何」
「いや…」
幸せ、だなぁって。
「…は?」
「なんかよく分かんねぇけど、今すげぇ幸せ感じた」
訳分かんねぇ、とゾロは眉を寄せて、ホットケーキをもう一切れ口に放り込んだ。
「な、ゾロ」
「あ?」
「ゾロは、何してる時が一番幸せ?」
「……」
ゾロは、何言ってんだ、という表情になったが、少し考えて、素直に答えた。
「寝てる時と、剣握ってる時」
「それだけ?」
「それと…」
お前とこうやってのんびりしてる時。
「なっ…」
サンジの顔がみるみる赤くなっていくのを見ると、ゾロはしてやったり、とにやりと笑った。
「お前はどうなんだよ」
「っ…」
あんなことを言われたあとで、一体何を返せばいいのだ。
「…ゾロと一緒にいる時」
こう答えるしかないではないか。
尤も、本心だから問題はないのだけれど。
それでもやっぱり、反則だと思ってしまう。
「ん?何か言ったか?」
「…ゾロは可愛いなって、言ったんだよ」
「あ?!…っ」
サンジはこれから言われるであろう文句を塞ぐため、そして赤い顔をこれ以上見られないために、
言葉以上の愛を込めて、ゾロにキスを送った。
END
→あとがき