その1
□溢れる想いを受け止めて
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ある日、ゾロは甲板に寝転んで、ぼんやりと空を眺めていた。
ゾロは悩んでいた。
ここ最近、胸のあたりがもやもやとして気持ちが悪いのである。
しかも、ふと気付くと、ある特定の人物を目が追っていて、その人の笑顔を見ると何故か心臓がドキンとするのだ。
…ここまでくると、たいていの人は恋だと気づくのだろうが、ゾロにはわからなかった。
なぜなら、ゾロにとってはこれが初恋だったからである。
しかもそれは、普通の恋ではなかった。
その違いは…
「くそっ…あの野郎のせいで鍛練にも集中出来ねぇっ…」
そう。
相手は、自分と同じ、男だったのである。
何故、と聞かれても、ゾロには答えることができない。
気が付いたら、目で追うようになっていたのだから。
「ったく、何なんだよ、コレは」
ゾロは苛々して、胸のもやもやがあるあたりを拳でドンッと叩いてみる。
しかし、そのもやもやは消えるどころか、ますます大きくなるばかり。
ゾロは、大きなため息をついた。
と、頭上から声がした。
「おい、クソ剣士。そこで何してやがる」
いきなり声をかけられ、ゾロは驚いて飛び起きた。
見ると、隣にサンジがしゃがんでゾロの方を見下ろしている。
ゾロは、一瞬思考回路が停止した。
サンジこそ、ゾロが目で追ってしまう張本人だったからである。
「っ…!!なんだ、てめぇか…びっくりさせんな」
「や、別にびっくりさせる気なんかないし…てか、足音で気づいただろう?起きてたんだし」
そうなのだ。
今までなら、気配で分かったのに…
胸のもやもやが現れてから、どうも変なのである。
しかも、相手がサンジだと余計に調子が狂う。
「…なんだよ。何か用か?」
「別に。おやつ持ってきただけ」
そう言って、サンジはゾロに皿を差し出す。
今日のおやつはフルーツケーキのようだった。
甘いものが苦手なゾロも、洋酒をたっぷり含んだこのケーキは好きだった。
でも、胸のあたりが苦しくて、今は食べる気にはなれない。
「…そうか…じゃ、そこらへんに置いといてくれ」
「なんだよ。今食わねぇの?」
「…あとで食う」
ゾロがそう言うとサンジは、はは、と笑って言った。
「んなことしたら、ルフィに食われちまうぜ」
その笑顔に、ゾロはドキンとして、思わずサンジから顔を逸らした。
「…??どうした、ゾロ?」
サンジが、ゾロの顔を覗き込む。
さっきよりも、ずっとずっと至近距離で。
「なんか、顔赤いぜ?」
「…っ!!」
サンジの息がかかるくらいに近くで見つめられ、ゾロの胸はどうしようもないくらいにドキドキしていた。
「大丈夫か?」
サンジが、ゾロの頬に触れようと手を伸ばす。
それを阻止するように、ゾロは慌てて言った。
「だっ…大丈夫だ!!何でもねぇ」
「…そっか」
そう言って、サンジは立ち上がる。
「じゃ、おやつは冷蔵庫の中に入れとくから、腹減ったら来いよ」
「お、おう」
サンジは、ゾロの分のおやつを持って、キッチンへと戻りながら呟いた。
「あいつ、自覚ねぇのかな…ねぇんだろうなぁ…」
サンジは、何かを思いついたように、ふっと笑った。
「一つ引っ掛けてみるか…」