その1

□誰よりも大切な君だから *
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その夜は、ゾロが不寝番の日だった。

空は晴れ渡り、頭上には星の海が広がっていた。

ゾロはその星を見上げながら、ふっとため息をついた。

サンジに想いを伝えた日から、約一ヶ月。

二人はめでたく結ばれた訳であるが、ゾロの胸にはまたもやもやが広がっていて。

別に、ナミやロビンに妬いている訳ではない。

相変わらずサンジは女性に目がないが、一度ゾロと二人きりになれば、ちゃんと態度を示してくれる。

抱きしめてくれる時もあるし、おやすみのキスだってしてくれるのだ。

二人きりでない時も、目が合えば微笑みかけてくれるようにもなった。

それでもゾロの心には、どこか足りないところがあって。

それが何なのかなんて、ゾロが理解できるはずもなく、ゾロはもう一つため息をついた。

そこに、サンジが夜食を持ってやって来た。

「よっ。ちゃんと起きてたか?」

「…たりめーだ」

不貞腐れたように言うゾロに、サンジは
ほんとかよ
なんて笑いながら、ゾロに皿を差し出した。

その夜食であるサンドイッチを食べながら、2人は他愛もない会話をした。

ルフィのバカ話とか、ウソップの新兵器の話だとか。

ゾロはそうしながら、できるだけゆっくりと夜食を食べていく。

お腹が空いていないとか、そういう訳ではない。

ただ、少しでも長くサンジと話していたくて。

ただ、少しでも長くサンジの隣にいたくて。

それでも、何時しか皿は空になる。

「−よし。じゃあ俺、そろそろ寝るわ」

「…おぅ」

「寝るんじゃねぇぞ、不寝番」

誰が寝るか、と言いかけたゾロの口を、サンジの唇が優しく塞ぐ。

「おやすみ、ゾロ」

すっとゾロの頭を撫でて、サンジが下へ降りて行こうとすると、ゾロが突然、きゅっとサンジの袖を掴んだ。

「ん?ゾロ、どした?」

「…え……あ、いや」

無意識のうちに手を伸ばしていたゾロは、慌ててその手を離し、目を逸らす。

そんなゾロの様子に、サンジはふっと笑って。

「やっぱ、今日はもうちょっとここにいよっかな」

不寝番が寝たら困るしな。と、サンジはにやりと笑う。

「だから寝ねぇ!!」

なんて、ゾロは脹れてみたのだけれど。

心は
まだサンジと居られるのだ
と、少し明るくなった。

サンジは再びゾロの隣に腰掛ける。

そっとゾロの手に指を絡ませれば、ゾロは驚いたようにサンジを見た。

「何?」

「…別に」

返事は素っ気なかったけれど、ゾロの手が握られたサンジの手は、ちゃんと握り返された。

そのまま空を見上げれば、数え切れないほどの星が瞬いていて。

ああ、綺麗だなぁ
なんてサンジが呟くと、ゾロも
そうだな
と小さく返事をした。

そのゾロの横顔が、あまりにも儚げで、寂しげで、でも美しくて。

サンジは思わずゾロの頬に手を触れさせた。

途端、ゾロがビクンと身体を震わせる。

「っ…何だ」

「…いや」

ゾロが、悲しいくらいに綺麗だったから…

ゾロは少しだけ怯えたような瞳で、サンジを見つめている。

この瞳、何処かで見た
と、サンジは思った。

少し考えて、サンジは思い至った。

そうだ、あの時の…

「なあ、ゾロ。お前、何かあった?」

「…何でそう思う」

「あの日と…俺に告った日と、同じ瞳をしてるから」

「……」

沈黙したゾロの頬に、サンジは優しく口づける。

「言いたくなかったら別にいいけど…言っちまった方が楽だぜ」

優しく、ふわりと包み込むようなサンジの言葉に、ゾロはふっと息を吐いた。

それからサンジの左手を握りしめ、ゆっくりと口を開いた。

「…俺は」
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