その1

□運命の人 *
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これはきっと、運命ってやつなんだろう。

こんなにも可愛いって、好きだって、愛しいって思えるのは、きっと…

この世界で、てめぇだけ。


***


「…何」

何てことない昼下がり。

ゾロがナミの蜜柑畑でぼんやりと空を眺めていたら、サンジが隣にやって来て
これまたぼんやりとゾロを眺めて、しかも特にそれ以外何もしないものだから
ゾロはいいかげん居心地が悪くなって、サンジに話しかけた。

「…別に?」

ゾロのこと、好きだなぁ、って思って。

なんてサンジが言えば、ゾロは顔を赤くして。

「今さら何言ってんだ」

ふい、と外方を向く、そんな些細な仕種すらも、サンジには堪らなく愛しくて。

二人が付き合い始めたのは、一ヶ月前。

サンジがあの手この手を使って、やっとのことでゾロを落としたのだ。

陳腐な少女漫画なら、両想いになったこの時点でめでたくゴールだ。

だがしかし、現実はここからがスタート。

二人のラブストーリーは、まだまだ始まったばかりなのだ。


正直なところ、ゾロは相当にモテる。

本人は自覚していないようだが、島に上陸して街を歩けば、決まって注目を浴びる。

酒場で男女問わずに口説かれているのはしょっちゅうだ。

そんなゾロだから、サンジは不安を感じない、と言ったら嘘になる。

でも。

ゾロの小さな行動一つで
(たとえば、今みたく顔を赤くするとか)
いつもそんな不安は吹き飛んでしまうのだった。


ふと気がつくと、ゾロは目を閉じて、お昼寝タイムに入ろうとしていた。

眩しい陽射しもちょうど良い具合に蜜柑の木の枝に遮られ
気温も温かく、お昼寝には最適なこの時間帯。

サンジも少しだけ、と思ってゾロの隣で目を閉じてみたのだけれど。

(…ダメだ、眠れねぇ)

ゾロと二人きりでのんびりと過ごす、なんて、とても些細なことだけれど、サンジにとっては幸せすぎて。

幸せすぎて眠れない、なんていうのも不思議な話なのだけれど。

そこでサンジは眠るのを諦めて、そっと静かに目を開けてみれば、そこには。

ゾロの子供のようなあどけない寝顔があって。

普段の仏頂面が信じられないほど可愛らしいその顔に
サンジがそっとキスを落とせば、ゾロは頬を薄く染めて、ゆっくりと目を開けた。

「あ、ごめん。起こしたか?」

「てめぇがごそごそうるせぇからな」

「どう、王子様のキスで目覚めた気分は」

「…あほ」

ゾロがもう一度目を閉じようとすると、サンジはその膝の上にするりと移動した。

「ゾロ、」

「…んだよ、…っ!!」

ゾロが口を開いた、その一瞬に、サンジは自分の唇をゾロのそれに押し当てて。

ゾロの咥内をくるりと一巡りしてから離れると、耳まで赤くしたゾロと目が合った。

「っ…てめ、昼間っから何考えてやがる」

「んー?ゾロのこと考えてるよ?」

「そういうこと言ってんじゃねぇよ…」

呆れたようにため息をつく、そんなちょっとした仕種でさえも、可愛いと思えてしまう自分に、サンジは苦笑する。

本当に、いつの間に、こんなにも好きになってしまったのだろう。
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