その1

□離れていても
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刀の手入れをして、シャワーを浴びて。

それからいつものように、ゾロがミホークのところにおやすみを言いに行くと
珍しくミホークが酒を飲もうと誘ってきた。

「どうしたんだ、急に」

「ちょうど上物が手に入ってな。酒は好きだろう、ロロノア?」

そう言われて、ゾロは断る理由もないので、大人しくミホークの正面の椅子に座った。

ミホークがグラスを2つ持ってきて、氷と琥珀の液体を中に注ぐ。

ちん、と音を立ててグラスを軽く合わせ、それから一気に中身を呷る。

アルコールがやや強めなのか、喉の奥が少し熱くなった。

「いい飲みっぷりだな、ロロノア」

ミホークはくすりと笑って、空になったゾロのグラスにまた琥珀色を満たしていく。

そうしながら、他愛もない会話をしていくうちに
ゾロはミホークがほとんど飲んでいないことに気づいた。

「あんたは、飲まねぇのか」

ゾロがそう聞いても、ミホークは曖昧に言葉を濁すだけで。

不思議に思いながらゾロが飲み続けていると
いつの間にかミホークが自分の隣の椅子に移動していた。

「なぁ、ロロノア」

思いがけず近い距離で名前を呼ばれ
ゾロが驚いて振り向けば、すぐ近くにミホークの顔があった。

「っ…何だ」

あまりの近さに、思わず身を引いたゾロに、ミホークは挑発的な笑みを向けて。

ダンッ!!
と音がしたと思うと、次の瞬間には、ゾロはミホークに圧し掛かられていた。

「っ、何しやが…」

「お前、俺のものにならぬか」

「…は?」

ミホークの言った意味を理解できていない様子のゾロに、ミホークはまた笑って。

それからもう一度同じことを繰り返した。

「だからな、ロロノア。俺とずっと一緒に暮らさぬか、と聞いておるのだ」

ここにいれば、海にいるよりも遥かに危険が少ないし
剣の修業だって思う存分することができる。

悪い話ではないだろう?

ゾロはミホークの言葉を黙って聞いていたが、やがて静かに身体を起こした。

「それは…出来ねぇ」

その誘いはありがたいんだが…

俺はどうしても、シャボンディに戻って、ルフィの元に帰んねぇといけねぇし
俺もそれを望んでる。

だから…

ミホークは、一生懸命に話すゾロをじっと見ていたが
そのうちにだんだんと楽しそうに笑い出した。

「…何がおかしい」

真剣に話していたのを笑われて、少しムッとしたようなゾロの声に
ミホークは笑いながら謝った。

「ははっ…すまんすまん。お前があまりにも真剣に答えるものでな」

そう言いながら、ミホークは元の席に戻った。

「今のは冗談だ、ロロノア。気にするな」

「…変な冗談言うんじゃねぇよ…」

冗談、と言われて少しほっとした様子のゾロのグラスに新しく酒を注いでやりながら
ミホークはもう一つゾロに尋ねた。

「お前には…誰か、いるのか」

心に決めた、大切な人が。

ミホークのその言葉に、ゾロは一瞬動きを止めた。

頭に過ぎったのは、太陽の光に反射する金色で。

「…ああ、いるよ」

「そうか…あの麦藁の、船長か?」

「いや。ルフィは違う」

「では…金髪の、スーツの男か」

「……」

ゾロは少し黙って、それからゆっくりと頷いた。

「ああ、そうだ」

久しぶりに、思い出した。

白い肌も、さらさらの金髪も、低く優しい声も。

ここに飛ばされてから、初めて思い出したのではないだろうか。

いろいろなことがありすぎて、ゆっくりと何かを考える暇などなかったのだ。

頷いてから、一言も話さないゾロに、ミホークが静かに尋ねる。

「会いたい、か?」

会いたい…

ああ、そうか。

今、自分はサンジに会いたいのだ。

どうせ一緒にいればケンカばかりなのだろうが、それでも。

ミホークに聞かれて、ゾロは初めて自分の気持ちに気がついた。

まさか、ここまで惚れていたなんて…

ゾロはふっと笑って、それからゆっくりと頷いた。

「ああ…そうだな。会いてぇ」

グラスの氷が、コロンと音を立てる。

それを口に流し込めば、喉がひんやりと心地好かった。

「…早く会えると、良いな」

優しい微笑を浮かべるミホークに、ゾロも笑い返して。

「おぅ」

二人の細やかな宴会は、夜が更けるまで続いたのだった。


END

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