パラレル
□Secret Intimacy *
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「直線lの方程式は、y=a(x−2)だから、点A、Bの座標は…」
ここは、とある高校の2年生の教室。
時刻は13:30。
5限目が始まって30分ほどが過ぎている。
生徒は睡魔と戦いながら、このクラスの担任であるサンジの数学の授業を受けていた。
しかし、サンジの授業中に居眠りをする生徒はほとんどいない。
授業を聞かないと、丸っきり数学が分からなくなってしまう、というのも一つの理由ではある。
だが、サンジの授業の場合それだけではなかった。
男子限定ではあるが、脚が降ってくるのだ、頭に。
女子は、授業のあとでありえない量のプリントが渡される。
こういう訳で、サンジの授業で寝る生徒はめったにいない…のだが。
「−だから、点Aのx座標をbとすると、点Aにおける円Cの接線の方程式が求まるよな?てことで、ゾロ」
「……」
返事がない。
「ゾロ?」
サンジが顔を上げてゾロの方を見ると、思いっ切り机に突っ伏して眠っている姿が目に入った。
そんなゾロを、隣のウソップがシャープペンで突いて起こそうとしている。
サンジは小さくため息をついて、一番後ろのゾロの席へ向かった。
ウソップを制して、もう一度ゾロの名前を呼ぶ。
が、ゾロに変化はない。
サンジは、先刻より幾分大きなため息をついて、足を振り上げた。
女子たちの悲鳴が上がる。
しかし…
パシッ!!
ゾロの頭にサンジの踵が直撃する寸前、ゾロの右手が見事にサンジの足をキャッチした。
教室に、おぉ〜という感心したような声が上がる。
もっとも、毎度のことなのだけれども。
「…んだよ、うるせぇ……」
「うるせぇ、じゃねぇだろがっ!!授業中だ、授業中」
ったく、毎回毎回俺の授業で寝やがって。
もう少し真面目に授業を受けたらどうなんだ。
などとサンジは言うのだが。
「いいじゃねぇか。赤点とってねぇんだから」
そうなのだ。
授業を聞いていないわりに、ゾロは毎回平均くらいの成績を取っている。
だが、サンジにとってはそういう問題ではない。
「よしわかった。お前、罰ゲームやらせてやるから、部活終わったら俺んとこ来い」
「…だりぃ」
「居眠りしたてめぇが悪いんだろうが」
忘れんじゃねぇぞ、と軽くゾロの頭を叩いて、サンジは教卓の前に戻った。
サンジは授業を再開させながら、頭の中ではゾロのことを考えていた。
まったく、本当にどうしようもない生徒だと思う。
どの授業でも、必ず寝るのだ、ゾロという生徒は。
その代わり、部活では授業の時とはまるで別人になるらしい。
事実、ゾロは県の特別強化選手に選ばれている。
そのため、ゾロは毎日剣道漬けの日々を送っている。
だからこそ、寝ながらにしてサンジの踵落としをキャッチする、なんていう神業が成せるのかもしれないが。
その剣道への情熱を、少しでも授業に向けてはくれないものだろうか…
サンジがため息をつくと同時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。