パラレル
□ごほうびはホットケーキ
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「ゾロー、出かけるぞー」
「んー」
ぱたぱたと走ってきたゾロに、サンジは上着を渡す。
「ほら、上着。自分で着れるな?」
「おぅ」
自身満々に答えながら、試行錯誤して上着を着るゾロを、サンジは微笑ましく眺めている。
サンジは25歳でゾロは4歳。
傍から見れば、父親が少し若い、普通の親子に見えるだろう。
でも、2人の血は繋がっていない。
ゾロは2年前まで、施設にいた。
それをサンジが連れて来て、それ以来一緒に暮らしているのだった。
「サンジ、きれたっ」
「お、すげぇじゃん、ゾロ」
サンジに褒められて満足そうに笑うゾロの頭を撫でて、それから靴を履かせて車に乗せる。
「なぁ、いまからどこいくんだ?」
「んー?どこだろうな」
「いいところか?」
「さぁな」
サンジは曖昧に言葉を濁し、車を走らせた。
***
「ほら、ゾロ。出てこいって」
「やだ」
「やだじゃねぇ。いいから出てこい」
「やだっ」
今、二人がいるのは、小児科の待合室。
今日、ゾロはインフルエンザの予防接種に来た訳なのだが…
子供というのは注射が大嫌いなもので、ゾロもまたその御多分に漏れず
ゾロは本棚の後ろに隠れてしまったのだった。
尤も、サンジの方からも少し髪が覗いていたりするので、その姿はとても可愛らしいものなのだけれど。
だが今は、そんなことを言っている場合ではない。
何を言っても出てこないゾロに、サンジはため息をついて、最終手段を使うことに決めた。
サンジは座っていたソファーから立ち上がり、ゾロの方へ向かう。
いきなり目の前に現れたサンジを見て、ゾロは驚きと恐怖がないまぜになったような表情になった。
サンジはそんなゾロに視線を合わせてしゃがみ、話しかけた。
「なあ。ゾロはさ、大きくなったら何になりたいんだっけ?」
突然そんなことを聞かれたゾロはきょとんとしたが、素直にその質問に答えた。
「ミホークみたいな、せかいいちつよいけんし」
ミホークというのは、剣道の達人で、日本選手権を5連覇している、最強の人物なのである。
ゾロはミホークに憧れて、剣道を習い始めたのだ。
「そうだよな。ゾロは世界一強くなるんだよな。だったら注射くらい我慢できないとダメだろ?」
「うー…」
「注射くらいで逃げてたらミホークどころかくいなちゃんにだって勝てねぇぞ」
ゾロは勝てない、という言葉に、はっと顔を上げた。
ちなみにくいなというのは、ゾロが通っている道場の師範の娘で、この道場の生徒の中では一番強い。
「そんなことない!!おれはくいなにかって、せかいいちになるんだ」
「そうだな。それなら注射も平気だろう?」
「……」
ゾロはしばらく黙っていたが、やがてこくりと頷いた。
そんなゾロに、サンジはにこりと笑いかけて。
「よし。ゾロ、いい子だ」
サンジはゾロを抱き上げて、診察室へと向かった。