パラレル

□いつだって、傍に
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いつだって、傍に


夕飯の買い物からの帰り道。

ひゅう、と吹き抜けた風にゾロは身体を震わせた。

隣を歩くサンジも、寒そうに眉を寄せる。

まだそんなに遅い時刻というわけではないけれど
11月も下旬に入ると、あっという間に暗くなる。

家を出た時には後ろに長く伸びていた2つの影も
今は薄暗さに紛れてほとんど見えなくなっていた。

道には他に人影はなく、二人を見ているのは、空に浮かぶ三日月だけだった。

「な、ゾロ」

「ん?」

「手、温めて」

言うが早いか、サンジはゾロの左手が突っ込まれている秋物のコートのポケットに
右手を滑り込ませた。

「っ…」

ゾロは咄嗟に、辺りを見回す。

「大丈夫。誰も見てねぇって」

サンジがそう言うと、ゾロは諦めてポケットの中でサンジの手を握り返した。

最近、サンジはこうしてポケットの中で手を繋ぐのが気に入っているらしく
隙あらばゾロのポケットの中に手を入れてくるのだ。

「ゾロの手、温けぇな」

「てめぇの手が冷てぇ」

「んー、でもゾロのおかげでだいぶ温まってきた」

ありがとう、とサンジは幸せそうに笑う。

サンジは、ゾロの手が好きだった。

大きくて温かく、何でも包み込んでくれる、男の手。

女の子の手ように、白いわけでも指が細く長いわけでもなく
ましてやハンドクリームなんて塗って、乾燥予防なんてしていない。

しかし、逆にそれがサンジの心を掴んだ。

ゾロはハンドクリームを塗らないから、冬には決まって荒れてしまう。

そうならないように、ゾロの手を温めてやりたいと思ったのだ。

尤も、温めてもらうのは専ら体温の低いサンジの方なのだけれど。

それでも、サンジはいつでもゾロの手が温められるように、いつだって傍に居たいと思うのだ。

そうやってポケットの中で手を繋ぎながら
サンジは自分よりも少しだけ背の高いゾロの横顔を見つめた。

左耳のピアスが、僅かな月明かりにキラキラと反射する。

それを見て、サンジは思わず触れたい衝動に駆られたが
生憎左手はスーパーの袋で塞がっている。

右手は空いていなくもないのだが、ゾロと繋いでいる手を離したくない。

そんなわけでサンジは、綺麗だなぁ、なんて思いながら、じっとゾロの横顔を眺めていた。

しばらくすると、ゾロがサンジの視線に気づく。

「…何だよ」

「別に。ゾロ見てるだけ」

悪い?とサンジが聞くと、ゾロは何も言わずに前を向いたまま歩き続けた。

ゾロが何も言わなかったので
サンジは再びゾロを眺め始めたのだが、やがてゾロが口を開いた。

「…いつまで見てる気だ」

「ん?いつまででも」

嫌?と尋ねると、ゾロは別に嫌ではないと言った。

「嫌じゃねぇけど、ちっとは前向いて歩け」

「何で?」

「いいから」

本当は家に着くまでずっと眺めていたかったのだけれど
ゾロに言われて仕方なくサンジは前を向いて歩き出した。
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