パラレル

□Lolipop
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がたん、ごとん、とお馴染みの音を立てながら
電車が昼下がりの街をのんびりと走っていく。

乗客は、ほとんどいない。

7人掛けのシートに、それぞれ2、3人がぽつぽつと座っている程度である。

そのほとんどが私服の大人たちなのだが、その中に、2人だけ制服の男子高校生がいた。

別に2人はさぼっているわけではなく(さぼりの場合もあるが、少なくとも今日は違う)、
今日は一学期の中間テストで、学校は半日で終わりなのだった。

そんなわけで、サンジとゾロは、無事に(?)物理と世界史との戦いを終え
久しぶりに一緒に帰っていた。

バイトで忙しいサンジと、部活で忙しいゾロは
普段なかなか一緒に帰ることは出来ない。

しかし、テスト期間はゾロの部活もなくなるので、一緒に帰ることが出来るのだった。

「腹減った…」

電車に揺られながら、ゾロがぽつりと呟く。

テストは11時頃に終わったのだけれど、家までは電車で1時間ほどかかる。

おまけに食べ盛りの高校生とくれば、7時前に食べた朝食など
1時間目の時点でほぼ消化され、昼まではとてももたないのだ。

「俺も腹減ったなぁ…何か食うもの…」

サンジもそう言って、鞄の中をごそごそと探り始める。

が、あいにく腹の足しになりそうなものは入っておらず
出てきたのは、袋入りの小さな棒付きのキャンディだった。

「あー…こんなんしかねぇけど…食う?」

ゾロは少しだけ眉を寄せたが、空腹には勝てなかったのか、黙ってそれを受け取った。

サンジも袋から一つ取って封を開ける。

「お、今日はキリンか」

「あ?」

いきなりキリンなどという男子高校生の会話ではまず出て来ないであろう
どことなくメルヘンチックな単語が聞こえてきて、ゾロは思わずサンジの方を見る。

「いや、このキャンディさ、裏に色んな動物がついてんだよ」

ほら、と言って見せてくれたサンジのキャンディの裏には、確かにキリンがついていた。

「これ、意外と面白いぜ?昨日は確かゾウだった」

「…へぇ」

「…で、ゾロ」

サンジは、ゾロの手元に視線を落とす。

そこには、いい加減ぐしゃぐしゃになったセロハンが
未だしっかりとついたままのキャンディがあった。

「…お前こういうの、ほんと下手くそな」

「あ!?」

ものすごい迫力で、でも少し恥ずかしそうな表情で、ゾロがサンジを睨みつける。

しかしサンジはそんな視線をもろともせず、黙ってゾロの手からキャンディを取り上げる。

ぐ…と少し力を込めて棒を引っ張ると、キャンディはいとも簡単にセロハンから出てきた。

「ほらよ」

「……」

ゾロは黙ってそれを受け取り、それからありがとう、と律儀に呟いた。

それからゾロがそれを口に入れようとすると、サンジが待ったをかけた。

「んだよ」

「動物は?」

「は?」

「キャンディの裏。見せて」

ゾロが言われるままにキャンディを裏向けると、そこにいたのはキリン、で。

「あ、キリン」

一緒だ、とサンジが少し嬉しそうに笑う。

だからどうした、と言いかけて、ゾロは口をつぐんだ。

サンジの幸せそうな表情を見て、何となく気がひけたのだ。

ゾロはその代わりに、キャンディを口に突っ込んだ。

オレンジのキャンディは、甘酸っぱくて、爽やかで。

そう、それはちょうど、恋のような味だと、ゾロは思った。


END

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