パラレル

□雨の日の帰り道
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朝からどんよりと曇っていた空からは、お昼には雫が落ち始め
サンジたちが帰る頃には、すっかり本降りになっていた。

「あー、やっぱ雨降っちまったな」

サンジがそう呟いて、持ってきた傘を広げようとすると
隣でゾロが鞄を頭に乗せて出て行こうとするのが見えた。

「ちょっ…ゾロ、待て!」

「あ?」

サンジが慌てて引き止めると、ゾロは面倒くさそうに足を止めて振り向いた。

「いやお前…傘、持ってねぇの?」

「ああ、持ってねぇ」

ゾロはそう言うと、再び雨の中に出て行こうとした。

「いやだから待て!」

「んだよ…」

「お前、傘なしで帰るつもりか?」

「だって傘持ってねぇ」

「この雨の中をか」

「仕方ねぇだろ」

走れば大丈夫だ、というゾロに、サンジはため息をついた。

そして、手に持っていた自分の傘をゾロに差し出した。

「ほら、これ使え」

「…てめぇはどうすんだ」

「俺はもう一本折りたたみ持ってるから大丈夫だ」

「……」

ゾロはしばらくサンジと傘を見比べていたが
やがてありがとう、と言って、サンジと一緒に歩き出した。


***


「−で?」

サンジは目の前のゾロを眺めながら言った。

「どうやって傘差したらこんなになんだよ!」

「知るか!お前の傘に穴でも空いてたんじゃねぇのか」

「んなわけあるかっ!」

2人がいるのはサンジの家の玄関。

そしてサンジの前に立っているゾロは、見事なまでにずぶ濡れだった。

辛うじて濡れていないのは、頭くらいである。

もちろん、サンジに貸してもらった傘をちゃんと差していたのだが。

ちなみに、ゾロよりも二回りほど小さい折りたたみ傘を差していたサンジはというと
足元がほんの少し濡れている程度である。

サンジは再びため息をつくと、びしょ濡れで突っ立っているゾロに言った。

「とりあえずお前、シャワー浴びてこい」

「べつにいい」

「風邪引くだろーがあほ」

「……」

ゾロはしばらくの沈黙のあと、大人しく靴を脱いでぺたぺたと廊下を歩き出した。

「おぁっ!おま、ちょっ、待っ…」

「あ?」

今度は何だと言わんばかりに振り向いたゾロの後ろには、3つほどの足跡。

それを全く気にしていない様子のゾロに、サンジはもう一つため息をついた。

「ああ、もういい…シャワー浴びてこい」

ゾロは不思議そうにしながらも、シャワールームに向かった。

それを見送ってから、サンジは急いで雑巾を取りに走った。

無論、ゾロが歩いていった跡を拭き取るためである。

「ったく…なんでこんなに傘差すの下手くそなんだよ…」

そんなことをぶつぶつと呟きながら、サンジが床をすっかり掃除し終わった頃
ゾロがシャワーを終えて戻ってきた。

ゾロはサンジが持っていった自分のスウェットを着ている。

お互いに一人暮らしのためによく泊まりに来るので
一通りの服や洗面用具は置いてあるのだ。

「シャワー、サンキューな」

「おう…って、てめぇ…」

「あ?」

「…頼むから髪くらいまともに拭けてくれ」

ゾロのその短い緑の髪からは、雫が垂れている。

むしろシャワーを浴びる前の方にも濡れていなかったくらいだ。

「ちゃんと拭いたのかよ、髪」

「拭いた。いつもこんなもんだ」

「…ああ、もういい。タオル貸せ」

サンジはそう言うと、問答無用でゾロの手からバスタオルを取り上げた。

そうして、ごしごしとゾロの頭を吹き始める。

最初は逃れようとしていたゾロも、そのうちに大人しくなって
サンジにドライヤーまでしてもらった。

「うし。終わり。ゾロ、なんか飲むか?」

「ん」

「じゃあ、ちょっと待ってな」

こくんと頷いたゾロの頭をくしゃりと撫でて、サンジはキッチンへと向かった。

そうして冷たいレモネードを作りながら、どうして自分はこんなにも
ゾロの世話を焼いているのか、なんてぼんやりと考えてみたのだけれど。

そんなこと、考える前から答えは明確で。

相当ゾロにやられてんな、と少々自分に呆れながらリビングに戻ると
待ちくたびれたのか、ゾロはすやすやと眠っていた。

「ったく…待ってろって言ったのに」

風邪を引くから、と起こそうとしたのだけれど
ゾロは少し身じろいだだけで、また穏やかに寝息を立て始めてしまった。

仕方がないから、サンジはブランケットを持ってきて、ゾロにかけてやる。

そうしてやってから、何となくゾロの髪を撫でてやると
ゾロはねだるように頭をこちらに向けてきた。

サンジは一瞬きょとんとなって、それからふっと微笑んだ。

「ほんと、世話の焼ける…」

でも、かわいい俺の、恋人。

サンジはそう呟くと、その頬にそっとキスを落とした。


END

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