その1
□風引きコックさん
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すぅ…すぅ…すぅ…
先ほどとは違い、規則正しい呼吸で、サンジが寝ている。
ベッドに運んだあと、チョッパーはしばらく忙しそうに動いていたが、やがて処置を終えたらしく、ふぅ、と一つ息をついた。
「…終わったのか」
「ああ。解熱剤を飲ませたから、今は落ち着いてる。2、3時間で目が覚めると思うから、それまでゾロに見ていてほしいんだ。サンジが目を覚ましたら、俺を呼んでくれ」
「わかった」
それだけ言うと、チョッパーはタタタッと走って部屋の外へ出て行った。
ゾロは、その辺に置いてあった椅子をベッドの横に持ってきて座り、すやすやと眠っているサンジの顔を見つめた。
チョッパーが解熱剤を飲ませたと言ったから、さっきよりは楽そうに見えた。
しかし、やはりまだ熱は下がりきっていないのだろう。
頬に触れると、まだ熱が残っていた。
「…無理しやがってよ」
ゾロは金色のさらさらとした髪を撫でながら呟いた。
サンジのことだ。
多分、クルーに心配をかけたくないとか、そういう理由で必死に隠していたのだろう。
だが、隠していたばっかりに、それ以上に心配をかける結果になったことを、サンジはどう思うのだろうか。
きっと、不甲斐ないとか、情けないとか、そういう風に自分を責めるんだろう。
無論、そんなことを迷惑と思うような者はこの船に乗ってはいないが。
せめて、俺にだけでも言ってくれていたら…
そこまで考えて、ゾロはくいなにも同じようなことを言われたのを思い出した。
***
時は遡ること10年前。
その時のゾロも、ちょうどサンジと同じような感じで、練習が終わった直後に倒れたのだ。
朝から熱っぽくはあったのだが、これくらいならいけるだろうと思って行ったような記憶がある。
だが、練習が終わって気が抜けたらしく、ふと目を開けると、ゾロはくいなの部屋にいた。
「気がついた?」
声がする方に顔を向けると、ゾロの枕元にくいなが座っていた。
「まったく…あんたバカじゃないの?こんな体でよく練習やってたわね」
「…」
ゾロが黙って布団から出ようとすると、くいなが押し戻した。
「こら。まだ起きちゃダメ。あんた病人なんだから…ほら、これ飲んで寝なさい」
そう言って渡されたのは、ほかほかと湯気の立つ、とろりとした液体だった。
「…何だ、これ?」
「あら、ゾロ知らないの?それはね、葛湯っていうのよ。飲むと体があったまるの。風邪にはこれが一番よ」
そう言われて一口飲んでみると、ゾロの口の中に懐かしいような優しいような、そんな甘さが広がった。
甘いものは得意ではないが、この甘さは悪くないとゾロは思った。
「…うまい」
「よかった」
「てめぇが…作ったのか?」
ゾロがそう聞くと、くいなは黙って頷いた。
ゾロもまた、黙って葛湯を口に運んだ。
「うまかった。ごちそうさま」
ゾロが葛湯の入っていたお椀を置くと、くいなが言った。
「ゾロ…あんた、少しは人を頼りなさいよ。あんたは一人で生きてるんじゃないの。だから、辛いときは辛いって言いなさい。じゃないと、余計みんなに心配をかけることになるわ−」