パラレル
□Rabbit or Wolf?? *
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「美味かった?」
「ああ」
「そりゃよかった」
満足そうにサンジが微笑む。
作った料理を美味いと言ってやったときのサンジは、本当に嬉しそうに笑うと、ゾロは思う。
もっとも、実家がレストランだと言っていたから、当たり前といえば当たり前のことなのかもしれないが。
それでも、そこらへんのファミレスよりも美味いと思ってしまうのは、評価のしすぎだろうか。
ゾロがそんなことを考えていると、いきなりサンジに唇を奪われた。
ちゅっと軽い音を立てて、サンジのそれが離れていく。
「…キスは1日3回までって言ってるだろーが」
「いーじゃんキスくらい。別に減るもんじゃねぇし」
「よくねぇ」
ふい、と目をそらして向こうの部屋に行ってしまったゾロに、サンジは小さくため息をついた。
二人はルームメイト。
最初の方は、互いにびっくりするくらい仲が悪く、ケンカもしょっちゅうだった。
しかし、人生とは分からないもので、今、二人はいわゆる『恋人』という関係になって、三ヶ月が過ぎようとしていた。
それなのに二人は、今まで一度も身体を重ねたことはなかった。
それどころか、キスだって先刻のような唇同士が触れ合う程度の軽いものしかしたことがない。
それというのも、ゾロが頑なに拒絶するからだった。
恥ずかしいのか何なのか、サンジが少しでもそういう素振りを見せると、ゾロはすぐに逃げてしまう。
一度無理やりやろうとしたら、渾身の力で頬を殴られた。
それでもそのあと、申し訳なさそうな表情で氷を持ってきてくれたところを見ると、サンジを好きなことには変わりないのだろうが…
サンジは胸のもやもやを吐き出すように、ふぅっと大きく息をついた。
そして、ゾロの機嫌を直すため、片付けもそこそこにゾロが好きな酒を持って隣の部屋に向かった。
***
部屋に入って最初にサンジの目に入ったのは、すぅすぅと浅い寝息を立てているゾロの姿で。
もう10月も半ばだというのに、ゾロは未だにTシャツ1枚で、ブランケットも羽織らずに寒くないのかと半分呆れながら、サンジはゾロをたたき起こす。
「おら、んな格好で寝てたら風邪引くぞ」
「…ん」
ゾロが片目をこすりながら、薄く目を開ける。
「ったく…食ってすぐ寝ると牛になんだぞ」
「…迷信だろ」
くだらねぇ、と再び目を閉じようとしたゾロに、サンジがチューハイの缶を差し出すと、黙って受け取った。
ぷしゅ、と炭酸が抜ける音を立てて、二人は缶を開けた。
中身を喉に流し込めば、グレープフルーツの爽やかな風味が広がる。
「甘ェ…」
ゾロが少し顔をしかめた。
酒に強いゾロにとっては、チューハイなどジュースのようにしか思われないのかもしれない。
「じゃ、俺の飲む?」
そう言ったサンジが飲んでいるチューハイは、さくらんぼ味。
「…そっちのがもっと甘ぇだろうが」
ゾロは、ふっとため息をついて、缶に残っていた液体を一気に飲み干した。