パラレル

□ごほうびはホットケーキ
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ゾロくん、とオレンジの髪の看護師さんに名前を呼ばれて、ゾロは少し緊張気味に、はい、と返事をした。

カーテンの中に入れば、おなじみの青鼻先生の姿。

青鼻先生はゾロの主治医で、よくお世話になっているのだ。

「やあ、ゾロ。今日はどうしたのかな」

「…よぼうちゅうしゃ」

ゾロが少し嫌そうに答えると、青鼻先生は微笑んだ。

「そうか。じゃあやる前に、ゾロが元気かどうか調べさせてくれ」

青鼻先生がそう言うと看護師さんが、お腹もしもしするからねー、と言ってゾロのシャツをたくしあげる。

「ちょっとひんやりするぞ」

青鼻先生はゾロの小さな胸に聴診器を当てて、じっとゾロの心臓の音を聞いている。

それから喉の様子もチェックして、にっこりと笑った。

「よし。ちゃんと元気だな。じゃあナミ、持ってきてくれ」

ナミ、と呼ばれた看護師さんは、にこりと笑ってカーテンの向こうに消えた。

「どう、ゾロ。泣く?」

青鼻先生が悪戯っぽくゾロに聞くと、ゾロは

「なかないっ」

と勢いよく首を振った。

それでも看護師さんが注射器を持ってくると、その瞳には少しだけ恐怖の色が浮かんだ。

看護師さんがゾロの袖を捲る。

アルコールで消毒されると、ゾロは僅かに身体を震わせた。

「よし、じゃあやるぞ」

青鼻先生の言葉に、思わずゾロはサンジを振り返る。

「サンジっ…」

今にも泣きそうなゾロの頭をサンジは優しく撫でてやる。

「大丈夫だ、ゾロ。すぐ終わるよ」

サンジにそう言われても、やっぱりゾロは不安そうなままで。

「っ…て、もって、サンジ」

サンジが両手でゾロの手を包み込んでやると、ゾロはぎゅうっとそれを握りしめた。

「それじゃあ、いくよ」

そう言って、青鼻先生の手が動く。

ゾロはギュッと目を瞑って、その一瞬を−ゾロにとっては長い長いその時間を堪えた。

「−はい、おしまい」

その声に、ゾロはゆっくりと目を開ける。

「泣かなくて偉かったな、ゾロ」

「ほんと。ゾロくん強いねー」

大人たちの言葉に、ゾロは少しだけ潤んだ瞳で

「…あたりまえだっ」

と可愛らしく言ったのだった。

そんなゾロにくすくすと笑いながら、青鼻先生は足元の箱から小さな棒付きの飴を取り出す。

「はい。泣かなかった子にはごほうび」

「…ありがとう」

きちんとお礼も言えたゾロに、サンジは偉いな、と笑いかけて、ゾロを抱き上げて診察室を後にした。


***


帰りの車の中。

ゾロは貰った飴をサンジに開けてもらい、後部座席で大人しく舐めている。

ふと時計を見れば、正午まであと10分で。

サンジは運転しながら、バックミラー越しにゾロに話しかけた。

「なぁ、ゾロ」

「んー?」

「昼、何食いたい?」

ゾロは、んー、と少し考えて

「ホットケーキ!!」

と答えた。

ホットケーキは、ゾロが大好きなおやつの一つだ。

サンジは、それはおやつだろう、と言いかけたけれど
今日くらいはわがままを聞いてやってもいいかな、と考え直した。

「よし。じゃあ今日の昼はホットケーキな」

「うん!!」

サンジの返事に、ゾロはとびきりの笑顔で答えたのだった。


END

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