短編・中編

□年下だけど、
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[藍side]

―――――――



収録終わり、ボクは名前が通るであろう楽屋近くの通路を陣取っていた。



藍「(……といっても、通路の端に立っているだけだけど。)」



通路を行き交う仕事関係者たちに挨拶しながら名前を待つ。



……今日はもう、名前の仕事は終わりのはず。


すべて頭の中に入っている名前の仕事スケジュールを思い返して頷く。



……決してストーカーなどではない。決して。


ボクは名前の嫌がることなんてしないし。






……で、話を戻すけど、名前は眼鏡とミツアミをしたら別人レベルで雰囲気が変わる。…だから、出待ちのファンの心配も無し。




……つまり、



名前は必ずこの時間に、この通路を通るはず…!







『あれ?藍ちゃん?』




藍「!!―名前っ!」



たとえ思考の海に沈んでいても、名前の声には光の速さで反応できる気がする。



ボクは自分の声のトーンが自然と明るくなるのを感じながら名前に駆け寄った。



藍「名前っ!仕事は終わったの?」



『うん!終わった終わったー。…んで、今から帰るとこ。』



ニヘッとイタズラっ子のように笑う名前に、思わず視線が泳ぐ。


……顔が…熱い。



『藍ちゃんも今帰り?』



藍「あっ、」



そうだった、このまま別れたら名前を待ち伏せしてた意味がない。



藍「あの!名前…!」



『ん?』



名前の大きな瞳がボクを見つめる。


…眼鏡のレンズ越しにも分かる…、澄んだ瞳。



……本当、名前と一緒にいると…ボクがボクじゃなくなる…



藍「(まあ…それも…イヤじゃ、ないけど。)」



『藍ちゃん、良かったら一緒に帰ろ?同じ寮だし。』



藍「えっ?え、あ、うん」



なかなか話し出さないボクに気を利かせてか、名前が一緒に帰ることを提案してくれた。



…ちなみに、“同じ寮”とは…

シャイニング事務所の、次のステップへ進める者だけに用意されたマスターコース、の先輩後輩が住んでいる寮のこと。



ボクは2人の後輩を担当しているけど、名前は7人。



ボクの後輩を含めて、全体的にまんべんなくアドバイスしていくのが名前の仕事。



先輩と後輩は同居する決まりだから、名前と同じ寮に帰ることができる。


あ、もちろん名前は一人部屋だけど。



『――ちゃん…藍ちゃん!』



藍「(ハッ!)…っご、ごめん!……何?」



ボクとしたことが…名前と一緒に居るときに意識をとばすなんて…




『ふふっ…何か考え事?あっ、悩み事ならお姉さんいつでも聞くからね!』



藍「…ありがとう、名前。」



…でも……、ゴメン。


ボクは、名前の弟になるつもりはないから。




『よっし!じゃあ帰ろ!』



藍「うん!」




――――――――



―――――――




名前とたわいもない話をしていると、アッと言う間に寮に着いてしまった。






藍「(また…暫く会えない…)」



お互い仕事もあるし、名前はとくに、国民的アイドルだから…ボクより忙しい。



『おっと、私ココだわ。じゃあね藍ちゃ――…』



藍「待って!」



ボクは反射的に帰ろうとする名前の手を掴む。




『ん?どうしたの、藍ちゃん?』



……ほら、また。



名前は優しいから、こんなおかしな行動をとるボクを軽蔑しないし、怒ったりもしない。


…そんな名前が相手だからこそ、




……ならば、と



新たな欲が出てきてしまう。




藍「名前…ボクの悩み事…いつでも聞いてくれるって言ったよね?」



『え?うん、もちろん!…というか、藍ちゃん本当に悩み事あったんだ!;気が利かなくてゴメン!;えと…部屋…来る?』



藍「うん、ボクの所はナツキとショウが居て、話せないから…。」



名前の優しさを利用するなんて…ボクは最低だ。



……でも…



ボクはまだ、名前の彼氏じゃないから…“一緒に居たいから”…とは、言えない。



……今はただ、名前を独占できれば、それでいい。





――――――――


―――――――



ガチャ…





『んー…たしか部屋はそんなに散らかしてなかったはず…あっ、藍ちゃん!ちょっと待ってて!!』



名前は、ボクに玄関で待つように言うと‥バタバタとリビングへ駆けて行った。




藍「別に…名前の部屋なら、散らかってても気にしないのに。」



……なんなら、ボクが片付けてあげるけど。



『藍ちゃーんっ、お待たせ!部屋、大丈夫だった!』



そう時間も経たない内に名前が戻って来た。



『さ!入って入って!!』



藍「、お邪魔します…。」



…そういえば…名前の部屋に入るのは初めてだ。



…時々、差し入れを持って来たりもするけど…いつも玄関で渡すだけだし。



……どうしよう。



…今さらながら緊張、してきた…




ガチャ…



『ようこそ藍ちゃん!まあ、テキトーに座って!』



藍「う、うん。」



ボクはソファの端に恐る恐る腰かける。



『藍ちゃん、お茶どうぞー』



藍「っありがと‥」



『ん〜……』



藍「………、…?」



視線を感じて、顔を横に向けると‥微妙な表情をした名前が唸りながら此方を見ていた。



藍「な、なに…?」




『いや……、なんか…遠くない?』



藍「え、」



『なんでそんなに端に座ってるのかなーって。……ちょっと寂しい。』



藍「う…、だって…」


ただでさえ…二人きりなのに…、




『ツラいなー、心の距離を感じるなー』




藍「っ…」



口調は軽いようなのに…


うう…そんな寂しそうな表情をされると…っ、




藍「…、」



ボクは意を決して名前との間が拳一個分ぐらいまで距離を詰めた。



『お、おお…ビックリした…まさか、こんな近くに来てくれるとは…』


藍「っ///…名前が来いって言ったんでしょ…」



『そ、そうだよね。あはは…。と、ところで!藍ちゃん!相談って何かな!?』



藍「…相談…」



…そっか、ボクはこれを口実にココにいるんだった。



………相談、か…





藍「…名前、」



『…ん?』





……好きな人はいるの?…なんて聞いたら…


…名前は変に思うかな?




藍「その…っ、」




…それでもやっぱり気になって…ボクは無意識に名前の方へ顔を向けた。




『え?』





藍「……………へ?」




…すると、丁度名前もコチラを向いていたようで、


お互いの鼻が触れ合うくらいに顔が近くになった。




……その出来事を頭で処理するまで、約3秒。




ボクは思いきり名前から飛び退いて、手のひらで顔を覆う。




藍「……っ///////」




う…、オーバーヒートしそう…///;



頭のなかで、こんなのボクらしくない、と唱えながら‥なんとか平静を取り繕うとする。



それでも、顔‥というか、体の熱はおさまらない。



……そういえば、名前はさっきから言葉を発していないけど…どうし…、―――




藍「…………え…?」





名前の方を盗み見ると……

名前は、さっきと同じ体勢のまま固まっていた。







………しかも、顔を真っ赤にして。





藍「(もしかして…名前も、照れてる…?)」



その事実に、頭は冷静を取り戻してきたものの、心拍数は異常なほどに上昇していく。



あの、いつもヘラヘラとして…鈍感な名前のあんな顔…初めて見た。


……もしかして、名前は…押しに弱い‥?




そう思うと、ボクの中にまた新しい欲が生まれ出す。



なんだかもどかしくて、ムズムズする。



……もっと、名前のこの顔がみたい。



羞恥心と欲望が逆転してしまったかのように、ボクは名前の隣へ座り直した。




藍「…名前?」



『はっ、はい!?』



藍「顔、真っ赤だよ。照れたの?」




『え!?///いや、あの…………っていうか近い!近いよ!藍ちゃんっ///;』



藍「ボクは名前の言いつけを守ってるだけ。」



『なんて真面目な子!?;で、でも、こんなに近くじゃなくていいんだよ!?//』



藍「ボクが好きで近付いてるから、いい。」




わざと名前の耳に息を吹き掛けるようにして言う。



……すると、名前の肩がビクリと跳ねた。






……どうしよ…、



…すごく…可愛い。




それに、さっきから胸の辺りがキュンと締め付けられている感じがする。



『あっ…藍ちゃ…』



フニッ…



『んっ!?』



ボクは名前の唇にソッと指を触れる。



……すごく……柔らかい…



『う…なんか…今日…キャラ違くない…?;//』


耳まで真っ赤に染めた名前が、潤んだ瞳でボクを見る。





ドキドキ、


キュンキュン。




なんだろう、この感じ…。



不思議な感覚がボクを支配する。


一体、ボクの中で‥何が起こってるの…?






藍「はぁ…名前…、////」




『あああ藍ちゃん!?な、なんだか…15歳にあるまじき顔してるよ!?//;』




藍「ん…っ…なんだか…体が…熱くて…、」




壊れ、ちゃいそう…




『え…熱いって…、まさか熱!?』




バッ!




藍「んえ!?///」



『…やっぱり熱い…。冷えピタあったかな……あっ、ちょっと待っててね!すぐ取って来る!』



冷えピタを用意すると別の部屋へ向かって行く名前を横目に見ながら、ボクはソファに体を埋めた。



――――――



――――



『どう…?少しは落ち着いた?』



藍「うん…。ありがと、名前。」


『よかった…。あっ、もうこんな時間…。どうする?部屋近くだし…送っていこうか?』



藍「ううん、ただの知恵熱だから平気。……それより、名前、」



『え…どうし…』




チュッ




『……っん……、え?』



藍「っ…//…か、彼氏でもない男を部屋に招くなんて、無防備すぎ。…こんな事をされても、文句は言えないよ?」



『…なっ…なななっ…!?///』



藍「ボクも男だってコト、ちゃんと頭に入れておいてよねっ!」



それだけ言い残すと、


ボクは名前の部屋を飛び出した。



……これで、ちょっとは意識、してくれるかな。



藍「…っ、////」



それにしても…名前の唇…気持ちよかった…、なんて…



藍「っ////」



ボクは、火照った顔を冷やしつつ、部屋に戻ったのだった。



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