ジョジョnovel
□第1話 定められた出会い
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ジョジョの奇妙な冒険〜love and hate〜
これは、ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーとの、切れることのない奇妙な運命の糸に絡め捕られた一匹の蝶の物語――。
「こんにちはー!」
久しぶりにくぐるジョジョの家の玄関。
「レオナ様、お帰りになられていたのですね。ご無沙汰しておりました」
「えぇ。今さっき帰ってきたところよ」
出てきたのは、遊びに来る私をいつも迎えてくれる執事さん。
私は父の仕事に着いていき、少しの間家を空けていたのだ。
「ジョジョはいる?」
「はい。お呼びして参りますので少々お待ちください」
「うん!」
ジョジョのお家って私の家とは違って、とても落ち着いた雰囲気で好きだ。
「……」
小さい頃から何度も来ている屋敷だが、不意に影が差したように暗くなる瞬間がある。
暗所恐怖症などという大それたものではない。ただ、暗いところは苦手なのだ。
自分がどこに立っているのか分からなくなるし、何より足がすくむ。
そんなことを思いながら待っていると、上から聞きなれた声が響いた。
「レオナッ!!」
私は振り返り、笑顔を向ける。
「ジョジョ!ただいま!!」
「お帰り!いつ帰ってきたんだい!」
「さっきよ。家に着いてすぐここに来たの」
ジョナサン・ジョースター。ここジョースター家の嫡男で、私の幼馴染。
というのも、私の家とジョジョのお家は近くにあるから、小さい時からいつも一緒に遊んでいたのだ。
「そうだ!君がいない間にね、中庭の花が綺麗に咲いたんだ。ダニーも連れて見に行こうよ!」
「えぇ、いいわ!」
彼の笑顔。昔から、ちっとも変わらない太陽のようなジョジョの笑顔が、私は大好きだ。
きっと、私たちが大人になってお爺ちゃんとお婆ちゃんになっても変わらないはず。
「何故そんなにニコニコしてるの?」
「ん?何でもないわ!…ふふ」
「可笑しなレオナ」
「「…あははは!」」
私たちが笑いあっていると、ジョジョの視線が私を通り越して階段の上に向けられた。
「?」
つられるように視線はジョジョが向いてる方に動く。
そこには見知らぬ人の姿があった。
「ジョジョ…、あの子誰?」
何度もこのジョースターのお家に来ているが、少なくとも私は一度もその人を見たことは無かった。
「………」
ジョジョは何故だが口を開かなかった。
その人はゆっくりと降りてくると、ジョジョの前で立ち止まる。
その時、ようやくこの見知らぬ人物をこの目ではっきりと捉えた。
「ジョジョ…。彼女は君の知り合いかい?紹介してくれよ」
「………うん」
ジョジョの表情は、さっきとは打って変わってとても不安そうな、怯えているような顔に変わっていた。
だが、それもほんの一瞬で彼はいつもの笑顔で顔を上げる。
「彼女は、レオナ・ロギンス。すぐ近くに住んでいて、僕の幼馴染なんだ」
「それで、彼はディオ・ブランドー。父の恩人のご子息でね、これからここに住むんだ」
「へぇ、レオナっていうのかい?ここの事はまだよく分からないんだ。良かったら色々教えてほしいな」
「………」
はっきり言って話の内容はほとんど頭に入ってこなかった。
私はこの時、とても不確かだが確実な何かを直感的に感じ取ってしまったのである。
この少年は、何かが違う。
私やジョジョとは比べものにならないくらいの何かを秘めているような、言葉にしづらい何かを感じる。
態度こそ紳士のように振る舞っているが、瞳の奥はとてつもない闇が潜んでいるような気がしてならなかった。
「レオナ…?」
ジョジョの心配そうな顔が視線に入る。
「えっ!あぁ、ごめんなさい!よろしく、ディオ」
二人とも微妙な表情をしている。
(初対面の人に対してこんなこと思うなんて、どうしたのかしら私…。今の事は忘れましょ)
よく見ればこのディオという人は、とても美しい顔立ちをしている。
(ブランドー…、聞いたことない名前ね…)
だが、家の名前なんてものは私にとってどうでもいいことだった。
「とても綺麗だわ。その髪の色」
「……?」
彼の目が私の真意を探るように鋭くなる。
「とても美しい金色ね。私はずっとあなたのような色の髪に憧れてたの。大きくなればなれるって思ってたけど、生憎この髪は変わってはくれなかったわ」
「レオナ!僕は君のその柔らかい茶色の髪が好きだよ!」
ジョジョが慌て横から口を出す。
「ふふっ、ありがとうジョジョ」
「髪の事を褒められたのは初めてだよ。ここはありがとうと言っておくべきかな」
彼は私に笑顔を向けたが、目は笑ってなかった。
「ディオ、今からレオナと庭の花を見にいくんだけど君も来ないかい?」
「…悪いけど僕はこれから少しやることがある。二人で行くといい」
「そうか、分かったよ!」
「行こう、レオナ」
「えぇ。じゃあ、また。ディオ」
「あぁ、また」
これが、私と彼の―、いや私とジョジョとディオの最初の出会いである。
幼い私はこの時、大きな闇に手を引かれ始めていたことに、知るよしもなかった。
――――。
「レオナっ、早く!」
「ちょっと待って、ジョジョ!」
私はダニーを連れて先を行くジョジョを一生懸命追いかける。
「着いたッ!」
立ち止まった彼に追いつき、息を切らしながらも顔を上げる。
「わぁ、綺麗!」
「だろう?早く君に見せたくてしょうがなかったんだ!なっ?ダニー」
「ワンッ」
「ねぇ、ジョジョ。あのディオって子とは仲良くしてるの?」
私は、庭の花を眺めながらそんなことを問う。
「えっ?どうして?」
「いや…、何となくよ。何となくそう思っただけ」
「彼がやって来てちょっとしか経ってないから、まだ仲良くは出来てないけど…」
「ふーん…」
「ディオが気になるのかい?」
「…いいえ。ジョジョの家に住むんだったら私も仲良くしないといけないでしょ」
「……ディオが来てから、父さんが厳しくなったんだ。僕のマナーがなってないから」
「…大丈夫よ、ジョジョ。マナーなんてすぐに覚えるわ」
「うん…」
「それに、私はいつでもあなたの味方よ」
「ありがとう、レオナ」
微笑み合う私達の間に、突然ダニーが飛び込む。
「わあっ!?」
思いっきり尻餅を着くジョジョの顔をダニーが舐めまわす。
「うわぁ、ちょっと!ダニーッ!」
「はははっ、きっとダニーも仲間に入れて欲しかったんだわ!」
「分かったよダニー…!分かったから!」
「ジョジョ、庭をぐるっと回って花を見てくるね。先にダニーと遊んでいて」
「うん!」
毎年綺麗に花を咲かせる美しい庭を、ぼんやりと見ながら歩く。
「ん…?こんな花、あったかしら」
そこには、見たことも無いが美しい花が咲いていた。
とても鮮やかなのに、どこが儚い花に私は思わず手を伸ばしていた。
「痛っ…!」
美しさに見とれて、刺に気付かなかった私の指は血が滲んでいた。
「……」
深く刺さってはいなかったのか、血はすぐに止まった。
(あまり深くは刺さらなかったのね)
その些細な痛みを気にも留めず、私は踵を返したのだった。