novel

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はじまりの朝





幕末動乱の世を美しくも力強く駆け抜けた男たち。
だが、彼等を待っていた運命は決して良いものとは言えなかった。

それでもなお己の信念を貫く為
     男達は今日も刀をとる――。



「それで、屯所に連れて帰ってきたって事ね?」



「そうだ」



昨夜は、『新撰組』の隊士が無断で屯所を抜け出し、幹部達が見回りに出かけてしまった。

私は、土方さんに止められて屯所で留守番していたが、いつの間にか眠ってしまっていた。



そして、今朝、昨日の事を全て聞いたのである。





「その子、今は?」



「源さんが呼びに行った」
何となく事態が掴めなくて一番的確な答えを出してくれそうな人物に顔を向ける。




「一君はその場にいたの?」





「・・あぁ」




「じゃあ――『今に分かるよ』」

言葉の途中で総司が横槍を入れた。それと同時に源さんと、もう一人の小さな影が襖に映った。




スッ




「昨日はよく眠れた?」

「寝ごこちはあまり良くなかったです・・」


源さんと共に入ってきた小さな体は少し震えていた。
格好は男の子なんだけど、何か違和感がある。
そんな事を考え、ジロジロ見ていると、不意に目があった。
こちらが笑いかけると、その子はさっと頭を下げた。




(・・まさかね)





いつの間にか話は進んでいて、その場は一旦お開きとなった。



一君に連れられ、部屋に戻るらしい。


「どう思う、トシ」




「とりあえず、もう一度話し合いの機会
をもうける。アイツも話したい事があるみてぇだからな」



「話したい事?それって何ですか?」



「俺が知るわけねぇだろ」

「まぁそうですけど。面倒だから斬っちゃえばいいんじゃないですか?」





「・・・」




土方さんは、どこか楽しそうな総司に返答はせず、厳しい表情のまま座っていた。





ちょっと気になるし、会いに行ってみようかな。


そう思って私が立ち上がると、怒られてしょんぼりしていた平助が口を開いた。




「アイツに会いに行くのか?」

その言葉にその場にいた全員が反応し、一斉に視線を集めた。




「え・・いやちょっと用事」


「そっか・・」



きっと、純粋に信じてくれたのは平助ぐらいだろう。



「それじゃあ・・行くね」


色々面倒くさいことになる前にさっさと出てっちゃおうっと。

そうして襖に手をかけ、部屋を出ようとした私を静かな低い声が制した。




「この事については再度皆を集める。それまで全員アイツには近づくな」



それは、その場にいる全員に対して放たれた言葉だったが、私のこれからの行動を完全に封じる言葉でもあった。

それだけ言うと、土方さんはスッと立ち上がり、残り香を漂わせながら私の横を通りすぎて行った。





「残念だったね」

総司が私の肩をぽんっと叩いて部屋を出る。





「え?残念ってなにが?」
平助が問う。



「行動が制限されちまったってことだよ。なぁ?左之」




「いや、行動っていうか、あの子に会いに行くつもりだったんだろ?」






「「えぇ!?」」






平助と新八が声を合わせて言った。





気づいてなかったんだ・・・。
しかも新八まで。



「ってことは・・俺のせいじゃん」


「まぁ、そういうことになるわな」


平助は慌てて私の前に駆け寄る。





「ごめんっ!!俺があんな事聞いたから・・」



「いいよ、平助」
私は笑顔を向けたけど、平助はまだ申し訳なさそうな顔をしている。




「ま・・、まぁ後で会えるしな。そん時にでも」





「新八は黙ってて」





「なんで俺だけ・・」

軽く落ち込む新八は無視して、私は再び、部屋を出ようと襖に手をかけた。




「何処行くんだ?」





「一君の所」





「・・なるほどな」

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