novel

□浮き草
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引きだしの一番奥にしまってあったのは






色褪せることのない花達――









「……」




「――」


「―――?」




スッ




「……。失礼します」



「…あ!いらっしゃったんですね!すいません、何回か呼びかけたんですけど…。食事の準備が出来ましたよ」



「あぁ、ごめんごめん…」


「……。」






「…?」




ニヤ




「千鶴ちゃ〜ん…、ちょっといい…?」






「…はい?…えっ、ちょっと…って神崎さんっ!何するんですか!?そこはっ…、だめですっ…!」



「きゃああ!」








雪村千鶴の叫び声は闇の中へと消えていった―。













―――。




「いやぁ、凄い人だね〜」


「…はい」





「ん?どうした?」




「あの、神崎さん、本当にいいんでしょうか…。こんなに綺麗なものも着せていただいてしまって…」


「いいのいいの。気にしないで?それに、許可はちゃんと取ってるから」




「許可…?」



「そう。もちろん土方さんにね」






「『無駄に歩き回らせんじゃねぇぞ』…だってさ」



「そうなんですか…」





今日は、きちんと土方さんの許可がおりた上の外出なのだ。




正しくは、外出許可はおりた、だが。






私と千鶴ちゃんは、前から歩いてくるたくさんの人を避けながら待ち合わせ場所に向かっていた。


いつもは比較的静かな京のまちは沢山の灯りと多くの人であふれかえっている。




理由は、今日が近くの神社が主催するお祭りだから。



千鶴ちゃんと一緒にいるのは、私が千鶴ちゃんを連れ出したから。

だが、私がこの子とまわるのではない。

私は…、言ってしまえば案内役だ。






「大丈夫?千鶴ちゃん」



「あっ…、はい!」




待ち合わせ場所というのは私がよく行く茶屋である。



「着いた…。あぁ〜、人多すぎ」



「そうですね。それで…、これからどうしますか?」




「何?これから?」






「え…?あの他の所とか見ないんですか?」




「存分に楽しんで?」






「楽しんでって…、一人じゃ道とか分からないんですけど…」



千鶴ちゃんはいささか困った様な顔を見せる。





「あれ?もしかして千鶴ちゃん、私とまわるって思ってる?」






「違うんですか!?」






「違います」







「じゃあ…誰が?」



「それは――『おーい!!琳!千鶴!』」





「来た来た」





私達の名を呼びながら、今回の千鶴ちゃんのお相手がやって来た。




「平助…くん?」



「遅いよ、平助!女の子を待たせるとは何事だ」





「悪ぃ!総司に絡まれてなかなか屯所から―…!!」




息切れしながら顔を上げた平助は私の横で少し恥ずかしそうに立つ彼女を見て、言葉を失っていた。




「あの…平助くん、何か変かな」






「へっ!?いやいやいやっ変じゃねぇよ!」


「っていうか、むしろ…」





「?」






「あぁー!もう!!」



「すげー似合ってる…」


平助はもごもごと小さな声でそう言った。



「え?なに?」



「いっ、いや!何でもねぇよ!」





そんな二人のやり取りを見ながら、私は美しく開いた花達を見ていた。






「神崎さん?何か、着方とかおかしいですか…?」



千鶴ちゃんは袖をあげたり後ろを見たり、心配そうな顔をする。




「ちがうちがう、似合ってるなぁって思って」





「ありがとうございます…!」


「あ、あのね、平助くん。これは神崎さんが着せてくれた服なの」





「へぇ〜、琳そんなの持ってたんだ…」






「ずっと昔のだけど」




それにしてもこの時期は人が多い。見てるだけで疲れがたまっていくようだ。





しかし、若い二人はそんな事はお構い無しと言うように、流れる人の波を見ながら快活に喋っている。





「さってと…、それじゃあ平助!千鶴ちゃんを頼んだよ」



「おうっ!任せとけって」







「あの、本当にいいんですか?私だけ楽しんでしまって…」





「遠慮はご無用!さぁ、行ってらっしゃい」


私は二人の背中を軽く押して、人波の中に消えて行く姿を見つめていた。





「……。さーてと、おばさんは一人でお酒でも飲むかな」

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