novel

□小さな夏の風物詩
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「俺達十番隊が、夜の巡察に行った時の話だ…」







暑い暑い夏の夜――.






部屋の灯りは蝋燭たった二つ。

集まっているのは、私、神崎琳と平助、総司、一君、千鶴ちゃん、左之である。


私達はそれぞれが夏の醍醐味である怪談を披露し、長い夜を楽しんでいた。








「特に変わった事はおきなくてな、屯所に戻ろうとした時だった。ある場所の道の端に誰かが立ってやがるんだ」



「でも、時間も遅かったし夜遅くに出歩く奴も殆どいねぇはずなのに、よく見ると髪の長い女が立ってた」







ゴクン








「怪しいと思って一人の隊士に聞いた『あの女…どう思う』ってな」





「そしたらそいつは、『女?何の事ですか』って答えた」




「どういう事か分かるか?そいつらには見えてねぇんだ。俺にしか…見えてねぇんだよ」





左之が静かにこう言った後部屋には生暖かい風が通った。


何故か私の心臓は大きく脈をうち、視線も泳ぐ。



今は一君の見慣れた無表情すら気味が悪い。






「その場であぁだこうだ騒いでも仕方ねぇと思ったから、そのまま通り過ぎようとしたんだ。そしたら…」


「低い…女の声で…」








「「「「……っ」」」」












「『呪ってやる…!!』ってな…」






「「!!」」





「……」






「おい…大丈夫か?」




「だめだよ左之さん。二人とも固まってる」






「…ちっ、おい!戻ってこい!」




「…はっ!それで!?その女はっ、どうなった!?」





意識を取り戻した私達(主に私と平助だけ)に左之は向き直り声音を低くして答える。





「消えちまった。足音もなく…な」





「……」







「……」






「…平助?琳?大丈夫?」






「はぁ?何?全然平気だけど…?なぁ、琳!」


「うん!平気平気…!」





「ふ〜ん」






妙に楽しそうな総司に比べ、私達は随分とひきつった笑顔を見せていた。


その時、不意に強い風が吹き蝋燭の火が消え辺りは真っ暗になった。






ガバッ








「あーあ、消えちゃったじゃない」




「俺がつけよう」



どうやら一君が再び火をつけてくれたみたいで、周りは先程の薄暗い状況に戻ったらしい。







「「「「……」」」」








「灯り…ついたぞ」





「……」






「……あー!いや、寒かったなぁ!」




「でも火がつくとやっぱ暖かいね〜!平助っ」



「だ、だよなぁ?やっぱ肌寒いよ、ねぇ?一君!」



「いや、今は夏なのだから大分蒸し暑いが」








「「………」」









「…ぷっ!あはははっ」




今まで黙っていた総司が身を屈ませながら笑い出す。




「あははっ…寒かったって…、無理ありすぎでしょっ、あー…お腹痛い…!」






「本当だって!」








平助はそう言い切るけど、さすがに今の時期、寒くはないよね…。




「でもさ、二人とも頭まで布団かぶってたじゃない。どんだけ怖がりなのさ」



「別にー?怖かったんじゃねぇしー!左之さんの話もそうでもなかったし」




「固まってたのは、どこのどいつだよ…」



「なぁ?琳」







「怖かった」










「えー…」




「あっははは!平助裏切られてるしっ」






落ち着いたと思った総司が再び笑い出す。





ごめん…、平助。
めちゃめちゃ怖かった…。





「うるせぇ!」



「あ…!でも千鶴っ、お前大丈夫だったか?」



動揺気味の平助に話をふられた千鶴ちゃんは笑顔で答える。






「原田さんのお話はとっても怖かったです」




「ほらほらっ、千鶴も怖かったって!」





「『も』って事はやっぱり平助怖かったんだ」





「ちげぇよ!今の『も』は琳が怖かったみてぇだから使ったの!」






「あっ!!」






ビクウッ

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