短編〜一君&他キャラ〜

□暑い暑い
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「…あぁー!暑いっ、暑いよ〜、一君」






「……あぁ」




「だぁー!何もしたくないよ〜、一君」








「……あぁ」





「暑い、暑い、一君暑い」









「……あぁ」




「………。」






「………」









夏――。


容赦なく照りつける太陽。暑さで噎せかえりそうになる空気。





私はこの季節が嫌いだ。






「ねぇねぇ、一君なんでこんなに暑いのかな。なんでこんなにもわもわしてるのかな」




「……俺に聞かれても…」






私は広間にうつ伏せになりながら、となりで正座している一君に無意味な質問を永遠と投げかける。




「これは、現在夏真っ盛りってことなのかな?それとも、まだまだだぜって感じなのかな。それにしてもこの暑さはなんなのだろうか一君」





「……京の夏など、こんなものだろう」






「ですよねー…」






遠くからは稽古に励む隊士たちの声がする。




「皆元気だなぁ」




私は床におでこをつけ、何もしなくても削れていく体力を少しでも留めておくために全身の力を抜く。




「…そのように暑いのならば剣の稽古をしてはどうだ」







「……。」





一君…、その方法で復活出来るの新八と一君だけだよ。




「夏は汗を流した方が良いとよく聞く」





「へー…」




私は適当に返事を返して顔だけ起き上がらせ、横目で一君を見る。





「ん…?」





私はあることに気付く。






「一君ってさぁ…、めっちゃ暑そうな恰好なのに涼しそうだよね」




「そんなことはない。俺とてこの暑さに手をやく時もある」







「ふーん…、じゃあ脱げば?それ」





私は年中彼の首に巻き付いている白い布を指差した。







「……その必要はない」


「なんで?暑いでしょ」








「そんなことは…ない」



微妙に視線を外す一君を見て、私の中の何かが発動した。




瞬時に起き上がり、一君に滲みよる。






「いやぁ〜、外した方がいいって〜。ね?」





「必要ない…!」


後ずさる一君と比例して私はずんずん追い詰めていく。





「涼しくて気持ちよくなれるよ〜?気持ちよくなりたいよね?は・じ・め・くん」






いよいよ壁まで追い詰めた私は一君に覆い被さる勢いで両手をゆっくりのばす。




「なっ、止めっ――…!」




声のない叫び声が響いた。















――。





「………。」







「…はぁ…はぁ…」







「……なんか…」







「……無駄に色っぽい」






私に身ぐるみを剥がされ、荒い息づかいで首をあらわにした一君は、体制を崩しながら再び視線を反らした。




「………。」







「どう?涼しいでしょ?」





「……そう…かもしれん」







「………」





なんか…、なんだろうこの気持ち。


なんだか…、なんだか…。






「はぁ、はぁ…、ははは一君!もうちょっと涼しくなりたくない?」





「なっ…!」





一君に負けじと荒い息で再び滲みよる。



「うふふ…、涼しくなるよぉ。涼しく…、はぁはぁ」





「くっ…、来るな…!」




もう自分を抑えられなくなった私の頭には、一君の服を脱がすことしかない。





「一くーん…!」




「やめっ…」





「良いではないか、良いではないかぁ〜」






私はずるずると後ずさる一君に股がり、動けない様に押さえつけた。





「一君……、覚悟!」






一君の襟元に手をかけた瞬間、背後から何か物が落下する音がした。



「「!?」」






私達は瞬時に振り返り、物音の正体を確認しようとした。









「……おめぇら、何やってんだ」










「「………。」」























「……で?琳は斎藤に股がって服を脱がそうとしてたってわけか」



そう、さっきの音の正体は通りかかった土方さんが持っていた文を落とした音であったのだ。



私達は、土方さんの前で正座状態。





「いや…、脱がすっていうか、涼しくしてあげようとしてたのですよ」




「…その割には随分と息が荒かったじゃねぇか」


「それはですね、夏の暑さという名の悪魔が私に乗り移って…、こう、そういう気持ちにさせたっていうか」







「……斎藤」



「はい」





「……いいか、例え琳であろうと襲われそうになったらぶん殴ってでも逃げろ」



「はい」





「ちょっと!襲われそうになったらって、襲ってないよ!ただ一君の身体を包んでいる布を剥がそうとしただけでしょ!」





「それが悪ぃって言ってんだよ!!」




「え〜」




「え〜、じゃねぇ!」







それから色々と言われたが、適当に受け流してさっさと部屋を出た。













「まさか土方さんに見られるとはなぁ。総司が通りかかってたら、もう少し面白くなってただろうに」



私がそう言って一君を見ると、表情が若干青ざめたのが分かった。





「でも、襟巻きは取ったほうが涼しかったでしょ?」





「……あぁ」








「んー…でも、あんな色っぽい一君は他の人には見せられないかなぁ」



冗談混じりにそう笑いかけると、一君は前を向いたまま、目だけを向けた。










「……では、涼しくなりたい時は訪ねる」






「………」





この人は、分かって言っているのだろうか。



「はぁ…」



「?」






「ほんと一君って、目が離せないよね」




「…それはどういう――」



「じゃあねー!」






言葉を遮り、逃げるように走り出した私の顔は少し赤かった。


「……っ」




















「少女漫画?」



後ろにいた平助の呟きも、夏の青い空と、照りつく太陽に消えていった。

        完
→あとがき
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