その他/short
□恋の方程式
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「…で、なんでこんな点数なの?」
「べ、勉強はしたんスけど…。」
本当はもっと怒ってやろうと思ったけれど、目の前でしょんぼりと肩を落とす彼を見ると、私もそれ以上何も言えなくなってしまう。
次は赤点脱出しようねと励まし、彼の為にわざわざ補習までしたのだが、結果はそれに反映しなかったようだ。
頑張っていたし、良い点とれるかと期待していただけに、私もショックが大きい。
さすがにテストの答えを教えるというのは、教師の立場上まずいので出来なかったが。
「補習の時は出来てたのにねぇ…。」
「だってセンセ、数字変えちゃうから…!!」
「当たり前でしょ!!」
「ちぇーっ…。」
それにしても、何故黄瀬くんはテストになると問題が解けなくなってしまうのだろうか?
普段の授業のスピードにはついていけているし、教えると理解もはやく、これといって原因が見つからない。
「とりあえず、テストで出来なかった所を復習して…、」
「センセ。」
「ん?」
「ちゃんと復習したら、バスケの試合観に来てくれますか?」
黄瀬くんは金色の瞳を私に向け、じっと私の答えを待つ。
その綺麗な瞳に、吸い込まれそうになる。
「…ちゃんと復習したら、ね。」
「本当っスか!?俺、センセの為にめっちゃカッコよくシュート決めますから!!」
黄瀬くんは本当に嬉しそうに笑った。
もし黄瀬くんが犬だったら、耳をパタパタさせ尻尾を盛大に振り、喜びを表現していたに違いない。
そんな彼の仕草に、生徒だと分かっているのに不覚にもときめいてしまう。
さすが、学校中の女の子を夢中にさせているだけのことはある。
「はいっ、復習終わりっと!」
「えっ!?そんな訳無いでしょ!!どれだけの量があったと思ってるの!?」
「だって、俺全部分かりますもん。」
「…え?それって…、」
"どういう意味なの?"
聞こうとしたその言葉は、私の口からは出なかった。
私の頬に、黄瀬くんの指がそっと触れる。
男らしく骨ばった手に、心臓がドクリと音をたてる。
黄瀬くんは、私の耳に囁いた。
「センセと二人っきりになりたくて、わざと赤点とったって言ったら…どうっスか?」
恋の方程式
((それは公式もなければ))
((一人でも解けないモノ))
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黄瀬くんはセンセ呼びな気がする。