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□甘めクッキーの魔法
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調理実習って苦手。
だって、失敗するの怖いんだもん。


何度かブン太の家でブン太の作業を手伝ったこともあるけど、やっぱり私だけじゃ作れない。
作ったら、違うものが出来ちゃって到底ブン太になんて渡せるものじゃなかった。


だから、今日は調理実習でリベンジ!
朝、今日調理実習があると言ったら持って来いとブン太に言われた。
これは、渡さないわけには…ねぇ?


でも、完成品は周りの子と比べるとすごく出来栄えが悪い。
砂糖、そんなに入れてないのに…なんか悔しい。
彼氏がお菓子好きだから尚更かな…。


「A子ちゃんのクッキー随分と見た目悪いねぇ…」


ズキッ―


多分、この子は無意識で言ってるんだろうけど…すごく胸が痛い。
授業終了のチャイムが鳴り終わると同時に女子生徒がどんどん家庭科室から出て行く。
私も荷物をまとめて急いでブン太のクラスに向かう。


けれど、そこにいたのはもちろん同じクラスの女子ばかりでさっきまで一緒にクッキーを焼いていた子たちだった。
しかも、その子たちの持っているクッキーは全部可愛い形をしている…
あー…持って来いって言われたけど、持っていけないや。恥ずかしい。
失敗したとでも言って捨てちゃえばいいや、そう思って屋上へと駆け出した。
































カリッ―


袋からクッキーを取り出して口に入れる。
苦い…砂糖の味もするけど、焦げた部分が苦い。
悔しい…彼氏がお菓子好きなのにその彼女はお菓子を作るのが苦手で…情けないよ…。


知らず知らずの内に目から涙が溢れていた。
抑えようとしてもどんどん溢れてくる、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい…!


その場にへたり込むと屋上のドアが開く音がした。
そちらを振り返れば息を切らしたブン太が立っていた。


『ぶん、たっ…!』


「ばかっ、ばかA子っ…」


こちらに早足で歩いてきたかと思うといきなり抱き締められた。


「自分で作ったもん自分で食うなよ、俺じゃねぇんだからよぃ…」


『だって、だってだって…!こんなのブン太にあげられないよっ!』


「なんでだよ、俺ずっとA子のクッキー待ってたのに」


『不味いし、見た目悪いし…それにこんなのより美味しいのたくさんもらったでしょ……』


「もらってねぇよ」


『え…』


でも、いっぱいいたじゃん。
いつもみたいにいっぱい女子がお菓子渡しに来てたじゃん。


「俺は、A子のクッキー待ってたんだぜぃ?」


そう言って私の手の中にある袋からクッキーを取り出して口の中に入れた。
あー…もう、ブン太死んじゃう…こんな不味いの食べちゃったら……


「ん、うまいっ!」


『う、そ…嘘言わないで…不味いに決まってる、自分で食べたもん』


「んー…俺は、A子が言うほどA子の菓子まずいと思わないけど」


『え……』


「むしろ、好き。なんでだろ…A子の愛が詰まってるから、とか言って?」


そういって笑うブン太が神様に見えた。
やばい、幻覚がどうしよう…


『でも、苦かった…』


「じゃあ、こうすればいいんじゃない?」


そう言ってもう一つクッキーを口にしてそのまま口付けをされた。


息が出来ない…
口の中にブン太が噛み砕いたクッキーとブン太の舌が入ってきて思考回路が追いつかない。
一度離してはまたキスをして角度を変えての繰り返し……
どこかで始業のチャイムが鳴ったけど、そんなこと気にしてたら私負けちゃう。


「ほら、甘かっただろぃ?」


『あ、甘いっていうか…く、苦しい……』


「あぁ、わりぃ…あんまりにもA子が可愛くってつい…ってな」


そう言って目尻にキスをされた。


「んな、自分責めんなよ。誰がお前の作った菓子バカにしても俺が守ってやっから…」


『うん…なんか、ブン太男前……』


「今までお前の中での俺ってなんだったんだよ……」


『テニス部の妙技連発食いしん坊の血糖値高い系中学生のぶーちゃん丸井くん。』


「お前、喧嘩売ってんだろぃ?」


あぁ、もう。君のその睨んでくる顔すら愛しいよ。




甘めクッキーの魔法
(どれだけ甘さを控えても)(俺達の愛で甘くしちゃうんだぜぃ)
(I love You !!)(君と私の愛は糖度∞なんだよ)




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…なんか恥ずかしいぞ、これ。ぐぬぬ…
最後のほうの
"テニス部の妙技連発食いしん坊の血糖値高い系中学生のぶーちゃん丸井くん"
は、私と友達でブン太をDisった時のあだ名です。ブン太ファンとしては精一杯のDisり。

 

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