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□お約束
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「A子」


『あ、幸村くん!ちょっと待ってて!』


「うん」


毎日俺が隣のクラスまで迎えに来るのは友達の幼馴染で俺の片想いの人。
どこかおっちょこちょいなところがあって放っておけない…っていうか、そういうやつだよ。


出会ったのは一年のときで、二年の時は応援も来てくれた。
誰よりも声張って応援してくれてたのを覚えてる、そんな大声普段出せない子なのに。


三年目じゃこんなに仲良くなって。
毎日俺が迎えに行って、購買部で適当にジュース買って鍵のかかってない美術室に入り浸って…そういう生活。


毎日毎日変わらないお約束。
これが幸せなんだ、今の俺の。
俺の不安定な心を安定させてくれるのはこの時だけなんだから。


『最近仁王のサボり癖が前にも増してすごいものになってるんだよ、どうしよう…』


「それ、A子が心配することなの?」


なんて言って笑ってるけど、今の俺の心の中は苛立ちが募って仕方ないんだ。
俺のことは"幸村くん"なのに、仁王や柳生のことは呼び捨てだよね。ジャッカル、ブン太に至っては下の名前だし。
俺はA子のことを下の名前で呼んでるのにA子はずっと俺のことを"幸村くん"って呼ぶ。
なんか、差別されてるみたいで辛いよね。それが苛立ちになる。


何やってんだろう…別にA子は俺のものじゃないのに。
それなのに毎日一緒にいればいるほど独占欲が沸いてくる。どうにもしようがない気持ちばかりが募る。


『あ、ブン太!次教室どこ!!?』


「あ?理科室!早くしねぇとチャイム鳴るぞ!」


『うっそ!待って、私も行く!』


「早くしろよぃ!」


『ごめんね、幸村くん!また後でね!』


「うん、転んだりしないでね」


それだけ言ってA子は勢いよく美術室から飛び出していく。
笑って手なんて振ったりしちゃって…どこまで俺って男は女々しいんだろう。情けない。


いつも一緒にいてくれる、それでも距離のあるような名前の呼び方…それが示している。
俺がA子にとって男として見られてないって。


あぁ、もっと男らしくいられたら良かったのに。



お約束
(それでも唯一俺だけがA子を独り占めできる時間だから有効活用させてもらってる)
(それでも足りないって思うこともあるんだ)(いつか俺だけのものにしてみたいものだよね)





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すれ違ってるのは何故でしょう、という話です。

 

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