頂き物

□君の誕生日
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「ねーえー!はーやくー!間に合わないよー!」

ジャリっと小石を跳ねる音。微かな振動。心地よいとは言えない刺すような風を体に浴びながら、言葉には出せない文句が口の中で「注文おおいなあ」と鳴った。きっとソウマには届いていない。
なだらかな坂道を、後ろにソウマを乗せて自転車で登っていた。出ようと提案したはずのソウマは、家を出たときには当然のように荷台に腰を下ろして足を揺らしていたわけだ。
だんだんと空が白んでいく。誕生日だというのに、なんて日だろう。少しだけ肩で息をして、枝葉から溢れる微かな光に目を細めた。

ソウマの言うまま自転車を走らせ、小高い丘を登ったところで、荷台がふっと軽くなった。ここが目的地なのかとブレーキをかけるその背中に今日何度目かになるどこか幼い声は「さー歩くよ!」と信じられないことをいいだした。
そびえる階段を前にして、文句の1つくらいは言っていいのだろうか。自転車の籠から手荷物を取り出しながら、また、ぼんやり立ちすくむ勇馬を振り返りながら、「何?おんぶしてあげようか?」とソウマは真顔で問いかける。
冗談じゃないと駆け出すのは最早意地かもしれない。
お互い何故か駆け足で、いつのまにか全力と言っていいほどの速さで階段を駆け上っていく。ソウマの口から、しんどさからか。それとも喜びなのか、笑い声のような苦しい息継ぎのような音がした。それはもちろん、さっきまで自転車を漕がされていた勇馬も同じこと。
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