復活 long
□03
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あの時の事は覚えていない。とは言ったけれど、大体の経緯は皆から聞いて知っている。
どうしてああなったのかも、大体は想像つく。
*
あれは、私がヴァリアーに入って一ヶ月経った時の事だったか。
その人達とも、なんとなくだが仲良くすることはできていた。
だからこそ、不安だったのだ。
私は、また捨てられるのではないのか、と。
ヴァリアーに来る前に居た所は、一刻も早く逃げ出したいという思いがあったから良かった。
そうではなく、ヴァリアーは優しいから、とんでもなく居心地が良かったから、私はひどく不安に駆られた。
どうしても、どうしても考えてしまうのだ。
ひどく不安に駆られて、嫌なことばかり考えてしまう。
「ししっ、どうしたのミシェル」
「あ、・・・・・・ベル君」
「ししっ、なんか浮かない顔してっけど?
王子がなぐさめてやろうか?」
そう言って巫山戯半分で両の手を広げるベル君。
丁重にお断りして、そのままベル君とくだらない話をする。
今日はスクアーロさんがボスに耳に天ぷら突っ込まれたんだ、とか。
レヴィさんに仕掛けた罠が上手い具合に成功して面白かった、だとか。
特殊暗殺部隊がするような話ではないけれど、面白くてついつい話し込んでしまった。
ベル君と話し込んでから自室に向かう。
自室に入って、ドレッサーのミラーに映る私を見る。
少し乱れたシャツの隙間からほんの少しだけ覗く古傷を隠すようにシャツを直す。
そこで一息つく。
<ニャッハッハッ。
居心地が良いにゃ?ここはよォ>
「ッ‼︎」
頭の中で響く自分と良く似た声。
いつもの自分より幾分か巫山戯たような声色。
猫だ。
最近、よく聞くようになった。
最近、というのも一週間程度の話なのだけれど。
<あの人間らは御主人によくしてくれるなァ?>
「そうね。
あなたにな関係無いわ。お願いだから黙ってて」
<どうせこの部屋には誰も居ないんだろう?
良いじゃにゃいか、二人きりの時ぐらいよォ。
俺も暇してるんだ。少しぐらい相手してくれよ。
それに、1人だと良くない事ばかり考えちまって怖くはないのかにゃ?
怖いんだろ?ニャッハッハッ>
よく喋る馬鹿猫だ。
頭の中で響く馬鹿猫の声を聞きながら、シャワーを浴びるためにパジャマを取り出す。
<そう言えば、この部屋にあるほとんどの物はあのオカマに買ってもらったものにゃんだろ?
にゃあ、自分で買ったりしにゃいのか?>
「欲しい物が出来たら買うわよ。
何?何か欲しい物でもあるの?」
そう聞くと、猫は高らかに笑ってしばらく考えた。
何やら鰹節やらマタタビやら聞こえたけれど、そんなもの買っても置く場所が無いわ。
まあ、所詮獣の猫だし。
本とか欲しがるわけがないか。
<にゃあ、鰹節が欲しいにゃ!>
「買わないわよ」
即答で答えると猫はにゃーにゃー喚き出した。
うるさい。
浴室に入ってシャワーを浴びる。
体を伝って流れ落ちて行く湯と一緒に、
私の中の良くないものも流れ落ちてはくれないかしら。
<ニャッハッハッ‼︎
にゃあ、ミシェルよ。
さっきのは冗談にゃ。>
「別に、本気だとしても買ってあげないけど」
<それもそれで悲しいにゃ。
ニャッハッハッ、だが、そうじゃないにゃ。
俺が欲しいのは鰹節でもマタタビでも、上等な魚でもにゃい。
俺が欲しいのは、アンタだにゃ。
ミシェル>