夜桜

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「………またか」




定期的に見るこの意味のわからない夢を思い出そうとするも、思い出せるのは限られたことばかり。



どうしてかいつも抽象的で、曖昧で、視界はぼやけていて、何があるのか輪郭がはっきりしない。


そんな視界からの目線。そんな目線からの視界。この夢は、私が誰かに成り代わっているということになる。


成り代わり……。
そんな能力を持った覚えはないけれど、実際は持っていたのかもしれない。
それが、最近多発している堕ちる事件の影響か、また他の何かによって出てきてしまった。


どんなに頭をひねっても、出てこないものは出てこない。頭は良い方ではないし、悪い予感ばかり当たるし。


考えるのを半ば諦めて、ベッドから体を起こして着替える。


「……今日の天気は、」



制服に着替え終えて窓に寄り、閉め切っていたカーテンを開ける。


目に入ってきたのは、重い鉛色の空をした雲から降り続ける雨たちだった。


「……、雨か。
雨の日は能力が活性するし、そのおかげで余計に疲れるから、好きじゃないなあ」



重い鉛色の雲に同調するように、沈んでいく私の気分。


天気でその日一日の何かを決めてしまうなんて、まるで動物ね。
自虐しながら部屋を出て階段を降りる。


「おはよう、母さん」


「おはよう。
ご飯どれくらい食べる?」


「ふーつーうー」


「もうっ、相変わらず変な返し方しかしないわねぇ」



そうは言っても、台所に立つお母さんは決まって私の希望通りの量を入れてくれるのだ。
だから、この返し方はやめられない。
それに、もういつもの量を分かってるだろうしね。


カウンターに置いてあるおかずと箸を取って朝ごはんにありつく。


うん、やっぱ朝ごはんは味噌汁が無くっちゃ。


「今日はバイトだっけ?」


「うん、そだよ。
雨の日はパトロールに行くのも億劫だよ」


「……そう。
ねえ、零香?」


「ん、なぁに?」


もぐもぐと朝ごはんにありつきながらぼうとニュースを眺める。
ふぅんむ、特に相変わらず治安が良いからなぁ、伝えること少なさそう。


「……最近、体の調子はどう?
何か変わったりした?」


「んー、特に。
小さい頃から変な夢は見てるけど、それも相変わらず意味のわからない夢ってだけだし。
能力の方も暴走してないし。
……大丈夫だよ、心配ないって」


母さんの方を向けば、心配そうな顔で私を見ていた。
本当に、心配無いのに。
何もかもがいつも通りなのに。
たまに母さんはこうやって私の体調を気遣ってくれる。


嬉しいけれど、心配する程でもないからなあ、ほんとに。


「ごちそうさまっ。
本当に何も無いからね!母さん!
いつも通り!」


「そう?
あなたは母さんと違って、妖力が強すぎるから……」


「だから八重さんから貰ったネックレス付けてるんじゃない!
これもあるし、皆も居るし、大丈夫だよ!
行ってきまーす!」


「行ってらっしゃい!
……本当に、気をつけて」


雨の中、傘をさしながら眼帯に手を添える。
……雨の日は余計に疼くんだよなあ、傷が。


気圧の変化なのか分からないけどさ。
曲がり角を曲がって大通りに出る。
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