夜桜

□03
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「秋名さん!?」

「秋名!」


「っと、アオにことは!

大丈夫か!?」



曲がり角を曲がった所で、商店街から来たであろう二人と鉢合わせする。


二人が手に待っている紙袋が、楽しいお買い物の最中だったことを告げていた。


今ではその紙袋もところどころ濡れている。



「私たちは全然!モウマンタイ!」


「みたいだな…っ、
よし、急ごう」


「はい!」



三人で河原へと駆ける途中、頭上から不自然な影がさす。


見上げれば、電柱から電柱へと飛び移って移動するヒメが見えた。


手にはどこから拾ってきたのか物干し竿が握られている。



「ヒメちゃん!」


「ん、皆!

さっき河原の方で何かが堕とされたわ!

誰も居なかったはずなのに、堕とされたの!」


「ヒメ!アイツはトカゲだって堕とすんだぞ!

考えたくもないが、魚にも手を出さないとは思えん!」


「あ、そっか。

皆、私先に行くわ!」


「おう!恭助も行ってるはずだ!」


「分かった!」



ヒメは速度を上げて電柱から建物へ飛び移って、建物を飛び越えながら移動していった。


あっという間に姿は見えなくなり、その速度はこういう時は羨ましく思う。



隣を見ると、ことはがヒメが去って行った方を眺めてボーッとしていた。




「ことは、前見て走れ!」


「……ヒメ、あのパトロールの仕方やめた方が良いと思う」


「はぁ!?」


「だって丸見えじゃない!下からなんて!
そんな町長サービス、お姉さん許さないからね!」


「もう、ことはちゃん!
そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」



アオに咎められてやっと落ち着いたことは。
ため息一つついて、気を引き締めた。


ここまで来て、ことはとアオ、ヒメに会ったが。


どうしてか、零香には会わない。


三人の誰かと行動を共にしていれば、まだ安心はできたものを。


いや、別方向から向かって来ているのかもしれない。


どうも良くない方向へ考え出す頭を振って、前を見る。

河原はすぐそこだ。


頼む、無事で居てくれ!

零香……っ!



河原に着けば、雨のおかげで増水した荒々しい川のそばで、恭助とヒメが先に着いていた。


乱れた呼吸を整えて二人に歩み寄る。



「恭助、ヒメ、何かーー」

「秋名」



遮って強く言い放ったヒメは、恭助から何かを渡されて、それを強く握った。


わなわなと肩を震わせるヒメは、こちらを見向きもしない。




「零香ってさ、八重さんから貰ったネックレスで妖力を封じ込めてたのよね」


「あ、あぁ。
そう、だが」


「これ」



そう言って俺に見せてきた物は、



いつも零香が首にかけている、


クロスネックレスの、十字架の部分だった。


いつも首元で光を反射させていたそれは、泥水で汚れてしまい、ヒメと恭助に多少は拭われていても、


今までのように輝いてはくれなかった。



「……っ!
これだけ、か。
零香は居ないのか?」


「居なかった。
あったのはこれと、傘だけよ」
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