侍だから何だっていうの?強い瞳に全身の血が沸いた感覚に襲われる。久しい感情に目を閉じると聞いているのかと蹴りひとつ。
これはなかなか。
「されどお主は農民だ」
「農民だって人間よ」
いやはや良い目をしているではないか、なぁシチロージと横に目を向けるとそれは血が沸き上がってしまっているようで決して視線をずらそうとはしない。呆れたように出た溜息は自分に向けられたものに思えた。儂とて同じ事であったのだ。
「侍とか農民とか商人とか馬鹿馬鹿しい…!」
憤慨したのか罵声を残して背を向ける。追ってやろうとしたがやはり先を越されてしまった。そうかお主、そのような面も持ち合わせていたか。
古くからの知人の背は彼女を追って小さくなるのである。