ひたり、と左の頬に冷たい感触が襲い掛かった。
「左近…」
「何ですか、この冷たさは」
風邪でも引いたら殿に怒鳴られるのは俺なんだぞ。と振り返り、自分の肩程にも満たない高さからこちらを見上げる目にキスを落とした。
「で、そんな冷たくなるまで何をしてたんで?」
「部屋に…入れて貰えなかった」
「なに、」
ピクリと片眉が動いた。殺気が漂い始めたのに気付いたのか彼女の手が服の裾を引っ張る。
「一体誰に?」
「幸村、に」
「まさか」
「にゃんこを拾って来ては駄目だって」
にゃー。鳴き声と共に着物の胸元から這い出てきた猫一匹。余程心地が良かったのか、喉がゴロゴロと鳴っている。
「…やはり、戻して来ましょうか」
「左近まで言う」
「ですが、ね」
「左近は解ってくれると思ってた」
「…」
「…、」
睨んで来る目が涙目で大いに焦った。だが、抱き締められて甘える猫に嫉妬をしたなど言えるはずもなく。
「メスなら考えなくもないんですけどねぇ…」