「違う、違うの」
何かを見据えるような目で彼女は淡々と言う。言いたい事は何か、など今更愚問だ。ここは解っている振りをするが得策なのである。そう長年の付き合いを通して思うのだ。
「私は此処にいるべきじゃないのよ」
「えぇ御尤も」
でしたら腕の中にお入りなさいと両手を広げてみたところ、やはり躊躇いもせずに寄って来る始末。冗談にせよ本気であるにせよ。これじゃあ、キュウゾウに申し訳がないではないか。
頭を横切った男が睨むように赤い眼を向けたので思わず笑いが込み上げた。まさか此処まで立ち入られるとは。行き過ぎている。
「やっぱり私も土中に埋まるべき?」
密着させていた顔を上げる彼女はさらりと言って退けてみせる。おかげで戸惑うのはいつもこちらの方なので、いつか仕返してやろうとも考えているのだが。泣いてしまわれてはどうしようもない。まだ笑っていられるだけましなのだ。
「それは些か簡単過ぎやしないか?」
「そう、なの?」
「人はいつかは土に還るものなのだろうよ」
お前だって。
付け足した言葉に見開かれた目がどうにも忘れられないでいる。