嫌だ、嫌いだ、大嫌いだ。気が狂ったようにぶち撒けてやるが正面に座る彼女は相変わらずの笑顔でこちらを見据えるのだ。さも愛しそうに。
「何だろうね…」
「ぁん?」
「いや、怒ってる元親も素敵だと思ってさ」
「…」
成る程、褒めて怒りを沈めようとしてるのか。随分と悪知恵が付いてしまったものだ。ふぅ、と溜め息を吐き出そうとしたが怒りを和らげてしまう気がしたので敢えて飲み込んだ。
「つか、いい加減に俺の三味線を返せ」
「だって、」
「言い訳無用」
「っ、馬鹿!」
…そうか、次は逆切れか。思わずククッと喉に笑い声が籠もった。
「笑った…!」
「あぁん?だから何だっていうん…」
飲み込んだ言葉は再び喉を通る事はなかった。笑った事を驚くなら俺だって同じ事。彼女の笑顔を見た事などなかったのだ。見ていたつもりでいただけで。
「笑え」
「、どうしたの」
「良いから…俺が笑えと言ってるんだ」
命令口調が照れ隠しだと気付かなければ良いのだが。