彼の吐くナイフのような鋭い言葉からはどうしても逃げられない。どうせなら誰からも得られない愛情を与えて欲しい。悲しくても、涙が出るほど切なくなっても。
「お帰り下さい」
「…嫌」
「我が儘を申せられるな、佐助…早急に連れて帰れ」
低い声が狭い部屋に十分なほど反響する。おかげで私はこの声を耳から離さないで済む。有り難い事だ。
「幸村、」
「引けませぬ」
「でも…幸村っ!」
この場合、叫んでも届かないくらいが丁度良い。いっそもどかしさで何も解らなくなるくらいに気が狂えば良いのに。
「じゃあ、帰したら俺様また戻ってくるからね…旦那」
「あぁ…頼む」
だけど、どうして体を捕らえるこの腕が憎いのか。どうして彼の目が優しいのか。悲しいのか。理由なんて酷い現実、何で理解出来てしまったのだろう。
「どうして、」
「どうか幸せに…」
もはや逃げる事すら出来なくなった戦場で最期に彼がキスをした。勿論、最初で最期になったが。