番外編
□前編 酒と涙と美食屋とキャバ嬢
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泣き崩れる楓ママを宥めながら僕はその理由を聞いた。
なんでも、最近できたクラブに女の子の一人が寝返って移籍。
その子は店でも売れっ子でNO.2だったらしい。
NO.1が楓ママ(オカマのくせに凄いな;)だから実質NO.1。
顧客もかなりの数がいたらしくって、そのこと一緒にそのクラブに流れちゃったんだとか・・・・
そのせいで店は大赤字。
クラブの士気も下がっちゃって女の子たちもやる気が出ない様子で・・・
それで楓ママは泣いていたんだって。
いや、NO.2に裏切られたのは悲しいし・・・経営的にも痛いと思いますけどさぁ・・・
『・・・・えっと、それでどうして僕のところのに来たんですか?;』
そう、それが謎だった。
愚痴を聞くくらいなら別にいいんだけど、でも今は開店前。
しかも仕込みの真っ最中。
お店が開いてからでも・・・・
「そう!それで、是非とも公ちゃんにお願いしたいことがあるのよ!」
『は・・・・えっ?;』
カウンターから身を乗り出して中にいる僕の手をギュッと握り、まっすぐに僕の目を見てくる楓ママ。
薄い形の良い唇がにぃっと吊り上るのをみて、嫌な予感がした。
そして、楓ママの口から出てきた言葉に僕は唖然とした。
「お願い!公ちゃんウチのお店で働いてちょうだいなっ!w」
さっきまで泣いていたはずの楓ママの目にはもう涙はなくって・・・・・
その顔は営業スマイルさながらの笑顔に変わっていた。
『お店で働くって・・・・えっと、厨房に立てってことですか?』
「何言ってんのよっ!公ちゃんが裏方に回るなんてとんでもないわっ、フロアキャストとして働かないかって誘ってんのよぉ〜w」
『へー・・・って、フロア!?;』
おいおいおいおいおい;
ちょっと待てよ?
フロアキャストっていえばお客さんの横に座ったりお酒作ったり、お話したり・・・
しかも、綺麗にお化粧したフェロモンむんむんのお姉さんたちがしているアレをやれっていうんですか!?;
『無理っ!;何をいってんですかぁっ!僕がそんな事できるわけがないじゃないですかぁっ!!;』
「あら〜、大丈夫よぉw公ちゃんウチの女の子と一緒にいても引けを取らないしぃ?それにお店に来るたびに思っていたのよねぇー、この営業力、トーク技術はうちの店に欲しいって・・・w」
『でも!それは自分の仕事だからで・・接客だけでお金を取れるほどの実力は僕にはありませんよっ!?;・・・・それに、僕にはこのお店が・・・』
そう。
接客はもちろんの事なんだけど楓ママのクラブと僕のお店の営業時間は被る。
両立なんてできるはずがなくって、楓ママのお店で働くっていうことはこっちを諦めなきゃいけないってことで・・・・
せっかくお店を経営できるようになったのに・・・
眉を八の字に曲げて困っていると楓ママはさらに口元を曲げて笑った。
「別に、ずっと働けって言ってるわけじゃないのよ。」
『え・・・・?』
「公ちゃんがお店を大事にしてるのは分かっているし、キャバ嬢に興味があるなんて思ってないわ。・・・だからね、3日でいいの!3日だけウチの店を手伝ってほしいのよぉっ!」
楓ママは握る手の力を強めて僕にお願いをしてきた。
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