小説
□太陽達はあまりにも残酷で
1ページ/1ページ
暑い、暑い、暑い。
室温36.5℃の体育館。
ほんの少し前までバスケ部がハードな練習を行っていたこともあり酸素が薄いような気がする。
窓という窓は全部解放しているのに風が入って来ない。
それの存在価値を疑い、サウナと化した体育館に苛立ち床を力一杯踏みつけたい。
「あれ、名前っちだけっスか?」
気だるさを含まない軽快な声の方向へ目線をやる。
扉から顔だけを出しキョロキョロと中を見渡すあいつは暑さなんて感じてないんじゃないか、と思ってしまうほど爽やかな笑顔だった。
「他の皆はこの暑い中ロードワーク」
「マジっスか!
さすが赤司っち。皆倒れなきゃいいっスけど…」
「一応さつきがついて行ったけど、心配だな…特に黒子」
「あぁ、確かに」
「黒子っちは危ないな」なんて独り言のように呟く。
心配そうに眉をひそめても様になるなんてやっぱりモデルは違うな。きっとこいつの笑顔で女の子たちはイチコロなんだろう。
職業柄そういうことをしているからか、日常でも癖みたいに出るあたりがあざとい。
あざといのに格好いいから困るよな。
目を瞑り溜め息を吐く。
ドカドカと体育館を歩く音。これは黄瀬がこちらに来る音。
気配で分かる。
いや黄瀬だから、私だから分かるのかもしれない。
ちょっと目開けて、言われた通り目を開けると視界いっぱいの黄色に目を見張る。
「名前っちにプレゼントっス」
黄色の正体は向日葵で太陽のように大きく自信に満ちていて。
その向こうではキラキラした笑顔の黄瀬。
あまりにも眩しくて、つい目を細める。
奇麗な太陽の花を受け取り、真正面の笑顔と交互に眺めて口許を緩める。
自分でも三日月のように弧を描いているのが感じられた。ここで月なんて表現すると対照的で余計に彼との距離を錯覚してしまう。
「黄瀬、向日葵の花言葉知ってる?」
きっと知らない。だからこそ私に、こんなにも残酷で悦ばしいことを簡単のやってのけてしまうのだろう。
向日葵の花言葉は、私は貴方だけを見つめる。
貴方は私のことなんて目もくれないのに皮肉なものね。
*