小説
□静雄さんと大掃除
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「静雄さん、そのタンス持ち上げてください」
「あぁ」
「……いいですよ、ありがとうございます」
軽々しくタンスを持ち上げてしまう静雄さんは大掃除の際にはとても役立つ。別にいつも使えないわけではないが、こういう時はその力が大いに発揮されると思う。
そう素直に伝えると静雄さんは複雑そうな顔をして私の頭を撫でてくれた。
つい先日までは街もテレビ番組も赤と緑で彩ったクリスマスだったのに、25日を過ぎてしまえば年末ムードとなる。
なんて切り替えが早いんだ。聖夜のプレゼントの次はお年玉なんて子供を持つ親は金銭面で大変だろう。
一年の終わりが迫って来て日本人の悲しき習性なのかは分からないが家の掃除をしなければと駆り立てられる。
文字通り隅から隅まで綺麗にするためにはタンスなどの重いものをずらさなくてはいけない。
普通の家庭なら諦めるなりするだろうが、我が家には静雄さんがいる。この人さえいれば百人力だ。タンスは持ち上げてくれるし、重たいゴミも出してくれる。高いところの埃を落とすのも楽チンである。
「静雄さん、これ持ち上げてください」
「ん」
「ありがとうございます」
「ここ終わったらそのゴミ出しといて貰えますか?今日が回収最後なので」
「分かった」
「それが終わったらお昼にしましょう」
「今日の昼は何だ?」
「そうですね…確か冷蔵庫に卵があったはず。今日は静雄さんに頑張って貰ったのでご褒美にオムライスにしましょう!」
頭の上で静雄さんは嬉しそうに笑うので昼食は気合いをいれないとな。
持ち上げてくれてた静雄さんに終わりましたと伝えて次の仕事に移ってもらう。
ゴミを纏めるために丸めた大きな背中が何時もより頼りなく少し可愛く見えたので、ぽんっと叩いて台所に向かう。
何故叩かれたのか理解できなくて首を傾げているであろう恋人の為に私はいつも通りボウルに卵を割った。
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