小説

□君と二人の醒めない夢
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ひりひり痛む足を庇いながら歩く石畳。コツコツと高いヒールか音を立てて足早に進んで行けば、視界の両端に見えるお洒落な店から聞こえる楽曲たちのテンポと合っていて、まるでダンスを踊っているような気分になる。
痛む足を引きずりながらステップを踏むなんて、とてもマゾヒズムで滑稽なピエロみたく他人から笑われることでも彼のためならできる。そう考える思考回路が一番笑えることだろう。

22時を回った待ち合わせ場所は夜の静けさを孕み、オレンジ色の光を灯す街灯から暖かみを感じとても美しかった。
しかし、そんな光景よりも私を釘付けにさせるスラリとした長身を見つけた。できることなら網膜に焼き付けたい彼が私の熱い視線に気付いて微笑みかける。その目を細める小さな動きも私を捕まえて離さない彼はなんて罪深いことだろう。


「ブチャラティ、待たせちゃったかしら?」

「いや、今来たばかりだ。…疲れただろう。足を靴擦れで痛めてるみたいだな」

「慣れない靴で…それより早く帰りましょ?伝えたいことがたくさんあるの」


高いヒールのお陰で同じくらいの目線で彼の瞳を見つめ促すと彼はそっと頷いて、まるでお姫様にするかのように左手を差し出してエスコートしてくれた。シンデレラになったかのようで一人で興奮して手を取り指を絡めて歩き出しながら12時になったら魔法が解けてブチャラティと一緒にいられなくなるのではないのだろうか、という恐ろしいことを考えてしまった。


「ブチャラティ」

「何だ?」

「12時になったら消えちゃったりしないよね」


口に出してから我に返った。私は何て子供じみたことを言って彼を困らせてしまったのだろう。
驚いた顔をして私を見つめる彼をチラリと確認して自分は本当に馬鹿だと、視界が滲んだ。


「ごめんなさい。気にしないで」


ごめん。もう一度謝って何も言わない彼の視線から逃げるように足元を見つめる。すると絡めた右手に少し力がかけられた。
顔を上げてブチャラティを見るといつものように真剣な目をしたその表情に心臓が早鐘を打ち始めた。


「俺は馬車にされる南瓜でなければ、馬になる鼠でもない。勿論魔法にもかかっていない」


ブチャラティは私の手を掬い上げ可愛いらしいリップ音をたててキスをくれるその仕草がとても格好良くて顔に熱が集中する。


「だが、お前がまやかしモノに怯えてしまうのなら───」


近付く整った顔に目を瞑るとよく知る香水の匂いと体温を感じてふわふわと夢見心地に。
不安なんて何処へやら。今はこうしてブチャラティに夢中である。


「何度でも魔法を解くためにキスしてやるよ」


そう言った彼は少し意地悪そうに微笑んだ。



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Title by Discolo

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