べるぜバブ小説
□写真を撮ろうか
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「ねえ、家族の写真を撮ろうよ。」
穏やかな日曜日の朝、朝食の席で姉の美咲がきりだした。
なんでも、昨日の夜アルバムをみていて思いついたそうだ。
「写真、ですか。」
「そうよ、小さいころはたくさん撮っていたんだけどね。でかくなるにつれて辰巳もひねくれてくるからねえ、嫌がるようになったのよ。」
しみじみと頷く家族に男鹿はうるせーとちいさく返した。
たしかに写真は苦手だ。
小さいころに撮ったというアルバムも開いたためしがない。
「ね、いいんじゃない?ベルちゃんの成長記録もかねて。」
「成長記録、、、それは素晴らしいですね。」
「でしょ。」
ヒルダは成長記録という言葉に目を輝かせた。
さっそくその日家の門の前に男鹿家全員が並んでいた。
カメラのタイマーをセットし走って父が加わると同時にパシャっとした音と光がはなたれた。
ちかちかする目を押さえながら、男鹿ははあーとため息をついた。
きっと、写真に写っている自分の顔はしかめっつらだろう。
「おおっ、よく取れてるじゃないか。よしじゃあ次は、新しい男鹿家を撮ろうか。」
「はあっ!?。」
ははっと笑う父親にイラッとくるがヒルダとべる坊に呼ばれ、仕方なくヒルダの隣に立った。
「ほう、そんなに私と撮るのが嫌か。」
「あ?ちげーよ、写真が苦手なだけだよ。」
「それでさっきもあんな変な顔をしていたのか。」
「喧嘩うってんのか、こら。」
「ああ、すまんな。貴様が変な顔なのは今に始まったことじゃなかったか。」
「誰が変な顔だっ!。」
「ダー。」
いつものように始まる痴話喧嘩に父は微笑んでシャッターをきった。
その日の夜。
男鹿は自分の机に座り2冊のアルバムを開いた。
ずっしりと重みのあるアルバムの中には仏頂面の幼い自分がいた。
「懐かしいな。」
昔から、写真は嫌いだった。
記念に写真を撮るたびにその瞬間が過ぎていってしまうのだと、思い知らされている気がするから。
今思えばずいぶんくだらない理由だと思えた。
今日買ったばかりのまだ軽いアルバムのなかには、
撮ったばかりの家族の写真が数枚ほどあった。
よくみるとその写真と昔撮った写真は同じように家の門の前で、同じアングルで撮られていた。
ただ少し違うのは、
べる坊とヒルダが男鹿の隣にいることだけ。
「家族、、、か。」
自分とべる坊とヒルダは本物の、家族じゃない。
けど、いつの間にか家族のように自然に、いることが当たり前になっていた。
大切になっていた。
愛しくなって いた。
「、、、ほんまかい。」
自分が考えた事に苦笑した。
写真も悪くない。
男鹿は机の上に一枚の写真をおいた。
その写真の中では、
男鹿と喧嘩をしているヒルダの腕の中の小さい魔王、もとい夫婦のキューピッドが、猛々しくピースをしていた。
その後
ヒルダが男鹿の部屋に行くと男鹿はめったに座らない机に伏せて寝息をたてていた。
「何だ、寝てるのか。」
男鹿の机の上を覗くとヒルダはフッと微笑んだ。
机の上には男鹿が小さいころのアルバムと今日撮ったばかりの写真が散らばっていた。
「まったく、あんなに嫌がっていたのに。素直じゃないやつだ。」
ベッドにべる坊を寝かせると、ひとつ毛布をとって男鹿にそっとかけた。
幼く見えるあどけない寝顔に今日男鹿がさりげなくヒルダと写真を撮るのが嫌じゃないと言っていたことを思い出して、またフッと笑った。
これからも この先もずっと、
皆で、
アルバムからはみ出すほどの思い出を、
写真を 撮ろうか。