羅刹篇
□桜姫
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〜羅刹 第弐章『桜姫』〜
「何時まで付いて来るつもりだ」
隣を歩く飄々とした男、元へ勒七に問う悠助。
「先刻から言っているじゃあないか。羅刹が消えるまでさ」
この遣り取りは江戸を離れてからずっと続いている。
羅刹を信じていない悠助にとって、それでは納得出来ないからだ。
「そろそろ宿を捜した方が良いね」
到着したばかりの小さな町できょろきょろする勒七。
悠助が眉を顰めたことは言うまでも無い。
「良い宿だねえ。お前さんもそう思うだろう?」
「それは否定しないが……何故貴様と相部屋なのだ」
無事に宿を見つけたが、勒七によって相部屋に。
別々の部屋でも構わないと女将に言われていた為、悠助は渋面だ。
「良いじゃあないか。わっちとお前さんの仲だろう?」
「気色が悪いことを言うな」
睨み据えて言えば、勒七は肩をすくめた。
「こうでもしないとお前さん、逃げちまうかもしれないだろう?」
「(いけしゃあしゃあと……)少し歩いてくる」
此処に居ると勒七を打ん殴りそうだと思った悠助は、頭を冷やす為に外へ向かった。
それを見送った勒七はどっかり座りこみ天井を仰ぎ見た。
「嫌だねえ。蜩が鳴いているよ」
カナカナカナカナ
呟きは天井へと消えた。