羅刹篇
□夢椿
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〜羅刹 第四章 『夢椿』〜
悠助と綾菜は、一言も話さずに闇鴉の家に戻って来た。
入って来た悠助を見て、にやりと笑った闇鴉。
何とも罰が悪い。
思わず顔を背けた悠助に、闇鴉は含み笑いをして、一本の小太刀を勒七に投げ渡した。
「何だい、これ」
黒い鞘に、鍔の部分には椿の紋様。
「妖刀みたいなんだけどねえ。あっちのことを主人だと認めてくれないのさ」
だから譲ると言う闇鴉に、断る理由も無い。
寧ろ断ったら己が危ないかもしれないと考えながら、小太刀を腰にさす勒七。
「名は“夢椿”(ゆめつばき)。それと、今は羅刹の情報は無いから、此処にはもう用はないだろう?さっさと前に進むことだねえ」
追い払うように手を動かす闇鴉に、顔を顰めることはなく悠助達は出て行った。
「あっちは共に歩めるのかねえ」
呟きは紫煙と共に消えていった。
再び江戸の町を離れようと歩いている間に、勒七は今までの事を綾菜に教えたのだが……。
悠助の口癖は『下らない』だとか、どうでも良いことまで教えるものだから、悠助はすっかりご機嫌斜めだ。
「それにしても、夢椿は桜みたいに実体化出来ないのかしら」
ひょっと綾菜が呟くと、桜がそれに口を開く。
「恐らく夢椿は幼子でしょう。何れ姿を見せてくれると思いますよ」
その言葉に綾菜は喜ぶも、又しても疑問が口から飛び出す。
「妖刀って全部人形なの?」
「そうとは限らないよ。妖刀に明確な定義はないしね。
村正みたいに忌避されて妖刀と呼ばれることもあるし、桜姫みたいな人形もあるし、勿論邪鬼だってある。
わっちは一度だけ邪鬼を見たことがあるよ」
それを聞いた綾菜は、おぞましいものでも想像したのだろう。
先刻の顔気色はすっかり引き籠ってしまっていた。
実際、邪鬼の妖刀は迚も禍々しいのだ。