羅刹篇

□居場所
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〜羅刹 第五章 『居場所』〜






宙を舞った笠が地面に落ちた。

「あれや、危なかったねえ」

笠と前髪を少し斬られただけで済んだ勒七。
口調に焦りはないが、状況は悪いままである。

「助けなくちゃ!!」

綾菜が真っ青な顔で悠助に縋り付くが、悠助は勒七から目を離さなかった。

「勒七は助けてくれとは言っていない。刀は何かを傷つけるかもしれないが、守る道具でもある。

今俺が勝手に助ければ、勒七が刀を抜いた意味はどうなる。俺は差し出者になるつもりはないよ。


それに、勒七は愚者(おれもの)じゃない」

その言葉に綾菜と桜は息を呑んだ。
気付いているのだろうか。
その言葉が、己の殻に罅をいれるものだということに。

悠助の目はいやに真っ直ぐだった。





「死ねー!!」

その声に我に返った綾菜と桜が勒七の方を見ると、二人はお互い攻撃を仕掛けていた。


地に塗れたのは男だった。


「わっちは、こんな所で死ぬわけにはいかないんだよ」

烏が一匹

飛び去った















「痛っ!!も、もう少し優し痛っ!!」

あの後、幼女の案内で近くの長屋に来た悠助達は、其処で勒七の手当てをしているのだが……。

先刻から痛いという言葉しか聞こえてこない。綾菜が、些か乱暴に手当てをしているからだろう。
ぐったりとしている勒七に対して、綾菜は大層ご満悦だ。


「助けてくれてありがとう。あたいは椿」

「わっちは勒七。それと悠助、綾菜、桜だよ。此処は椿の家かい?」

ちょこんと座っている椿に、何とか調子の戻った勒七が尋ねれば、肯定の返事が返ってきたが……その表情は何とも悲しそうだった。

その時

「誰かいるのかい?」

不意に戸が開いて、数人の男女が顔を覗かせた。
悠助達は驚いたが、町人はそれ以上に驚いたのだろう。
戸を壊さんばかりの勢いで家の中に入って来た。

「椿ちゃんじゃないか!!」

先頭の女がそう叫べば、口々に椿の名を呼び、あっという間に椿は見えなくなってしまった。

椿に触れられないことは何等問題ないようで、椿の顔にも悲しさは無くなっていた。

部屋一杯の暖かさは、何とも心地よかった。
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