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年が明けて、ようやく、小野瀬さんと一緒のお正月休み。 私たちは約束通り、温泉旅館に泊まりに来ていた。 小野瀬 「朝から出たのに、もう夕方かあ」 「でも、夕飯まではまだ時間があるね」 小野瀬 「そうだね。近くを散歩するか…それとも、どう?卓球でもする?」 言われてみれば、旅館の一角に卓球場があった。 小野瀬 「せっかくだから、何か賭けて」 「面白そう。でも、何を?」 「俺と一緒に貸切り風呂、では嫌?」 もう子どもでもないし、嫌じゃないけど、恥ずかしくて、頷けない。 「だって……明るいところで裸なんて……」 「今更でしょ。俺はきみの隅々まで、見尽くしてるのに」 「そんな……改めて言わないで」 火照る顔を両手で隠してうつむく私を見つめ、小野瀬さんは小さく笑った。 「仕方ないなあ。じゃあ、賭けの賞品はそれだね」 「え?」 「俺が勝ったら、一緒に温泉に入る」 「え!?」 「きみが勝ったら、何でも言うこと聞いてあげるよ。…そうだ、点数も、10点おまけしてあげる」 10点もハンデをつけてくれるなら、もしかして、私でも勝てるかも。 そしたら、小野瀬さんが何でも私の言う事をきいてくれる… 「どう? 勝負する?」 「やります!」 その結果……。 小野瀬 「早くおいで」 「ううう…」 結果はボロ負け。 私は、恥ずかしいのを我慢して、小野瀬さんと一緒に温泉に入ることになった。 「ほら。露天だから、星がよく見えてキレイだよ」 「ううっ」 どうしても行けない私を、小野瀬さんの手がそっと引っ張った。 小野瀬さんの強引さに胸を掴まれ、気がつけば湯船の中。 でも、促されて空を見上げれば、本当に、綺麗な星空が広がっていた。 「きみを旅行に誘って、本当によかったよ。仕事の疲れも吹っ飛んだ」 幸せにしてもらったのは私の方。 私は胸がいっぱいになって、小野瀬さんの手を包んだ。 「きみは優しいね」 「優しいのは、葵にだけ……だよ」 その感触に笑みを浮かべると、小野瀬さんの顔が近付いてきた。 「それは嬉しいな。きみは俺だけのもの、ってことか」 「うん。葵だけの、私」 「なら、俺だって一緒だよ。俺も、きみだけのものだ」 唇が触れた瞬間、そこから別の熱が広がっていった。 水音を聞きながら、更に深く口付けを交わす。 身体が密着し、熱が波紋のように広がるみたい。 (ボーッとして……何も、考えられない……) キスに酔っていると、小野瀬さんの手が腰に回された。 「ぼんやりしてると、湯船に沈むよ。…そんなになるほど、気持ちよかった?」 「あの……その……」 バレてたのが恥ずかしくて、何も言えない。 「隠しても分かるよ。きみは、すぐ顔に出るからね」 そんな私のおでこにキスを落とし、小野瀬さんはしっかりと抱きしめた。 「きみを、もっと感じていたい」 「……ここで?」 「ダメ?」 「……ダメじゃ、ないよ」 「よかった」 小野瀬さんは満足げな笑みを浮かべ、私の身体にキスを落とす。 「やっぱり、温泉にしてよかったな。見たことないきみの姿を、また見られそう」 そんな嬉しそうな声も、温泉の流れる音に掻き消された。 〜終わり〜
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