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「お手柄だったわね、櫻井。お疲れ様」 確保した盗撮犯を連れて戻ると、集まったみんなの前で室長が誉めてくれた。 「窃盗犯の方は小野瀬たちのチームが捕まえてくれたし。アンタ、今日はもう帰宅していいわ」 「え、私も最後までお手伝いしますよ」 私が言うと、室長は微笑んだ。 「充分に働いてくれたわよ。改めて代休はあげるけど、帰って休みなさい」 「でも、まだ事件は全部解決してませんし」 「真面目ねえ」 今度は苦笑い。 「それなら、残りの捜査や取り調べはワタシたちがやるから、アンタは、ミラーハウスに行って、不審物を探してくれるかしら」 「ミラーハウス?」 「避難した客に聞き込みをしたところ、ミラーハウスで不審な箱を見たという証言があったのよ。見つけたら報告してちょうだい」 「分かりました、行きます」 こうして、私は再び、今度は一人で、夕焼けに染まる園内を歩き出した。 (…やっぱり、素直に室長の好意に甘えればよかったかな…) 日が暮れて、ぽつぽつと点り始めた水銀灯の明かりだけを頼りに順路を歩きながら、私はちょっと後悔していた。 全ての遊具が停止した、音の無い遊園地には他に動く物も無く、一人では心細い事この上ない。 (でも、頑張ろう。一人前の刑事になる為に…JSに飽きられない為にも) 私はぎゅっと拳を握って、気合いを入れ直した。 ミラーハウスは他の遊具とは違い無料の施設で、誰でも自由に出入りできる。 ざっくり言うと、鏡張りの迷路のような建物だ。 私の懐中電灯の小さな明かりだけでは足元を照らすのが精一杯で、何度か角を曲がった辺りから、自分の位置が判らなくなる。 (景色が見えれば迷わないのに…) 冷や汗をかきながら右往左往し、どうにか、探していた箱を見つける事が出来た。 「あった…」 でも、もう、暗さと怖さで疲れ果てて、どちらに向かえばいいのか分からない。 「…」 私は溜め息をついて、座り込んでしまった。 JSならきっと、こんな迷路ぐらい、笑いながらスイスイ通り抜けるに違いないのに。 「ジョン…」 その時。 「やっと僕を呼んでくれたね」 突然すぐ近くで声がした。 驚いていると温かい手が肩に触れて、ゆっくりと抱き寄せてくれる。 「ジョン…!」 胸に顔を埋めて髪を撫でられると、涙が溢れてきた。 「…いつから居たの?」 「最初からだよ、もちろん。でも、頑張っていたから」 「意地悪」 拗ねたように言えば、 「ほかの男にスカートの中を見せた罰」 彼は私の涙を拭いながら、優しい口づけで応えてくれた。 「きみといると退屈しないね」 (…ちょっと複雑だけど…誉め言葉だと思う事にしよう) 上目遣いに睨むと、額にキスをくれる。 「鏡をご覧」 JSの指輪が輝いて、辺りが仄かに明るくなった。 壁の鏡に抱き合う私たちが映っていて、少し恥ずかしくなる。 「どうする?これから真夜中まで遊園地を動かして、満月の下でルイルイたちと追いかけっこをしようか?それとも…」 JSの指先が、私の頬の上を滑る。 どうしよう、どちらも楽しそう。 私を見つめていた、鏡の中のJSが妖艶に微笑んで指を鳴らすと、全ての明かりが消えて… 私は甘い闇と、彼の香りに包まれた。 〜終わり〜
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