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「うふふ…どう?」 「か…可愛い…」 待ち合わせしたホテルのロビーで、如月さんはくるりとターンして見せた。 栗色のウィッグの巻き毛が肩のあたりで揺れている。 如月さんの作戦とは、変装が得意な如月さんが女装をして、私の代わりにお見合いに行くというものだった。 昨日、話を聞いた時には不安だったけど、彼の女装の完成度は、さっきまで見ていたニューハーフのおじさん(失礼)たちとは比べ物にならない。 その証拠に、すれ違う男性たちが、みんな如月さんを振り返ってゆく。 「さて、そろそろ行ってくるわ。じゃあね!」 如月さんは、意気揚々と、ラウンジへと向かって行った。 待っていたのは、いかにもお金持ちといった感じの大学生。 超軽い、遊び人風の声が聞こえてくる。 私は、素知らぬ顔をしてその近くの席に座った。 (…明らかに別人だけれど、大丈夫かな…) 見合い相手 「翼ちゃんってさ、写真うつりがずいぶん違うんだね〜。別人のような気もするけど、美人だから、いいや〜!」 大丈夫だった。 会話は全く噛み合わないけど、見合い相手は如月さんを一目で気に入ったらしく、 「翼ちゃんって超ウケル〜!」 なんて言いながら、あっという間に如月さんをラウンジから連れ出して、エレベーターに乗って行ってしまった。 行き先を示すランプは12階を示している。 (き、如月さん!どこへ連れて行かれちゃうの?!) 私は一足後れで隣のエレベーターに乗り込み、12階へ。 如月さんを探して廊下に出ると、向こうから、すごい勢いで走ってきた。 「翼ちゃん!逃げろ!」 私の手を取った如月さんは、非常階段を抜けて、上の階の客室へ飛び込んだ。 如月さんが、女装する為に借りた部屋だ。 「あいつ、見た目によらずすごい馬鹿力でさ。部屋に連れ込まれそうになったから…パンツ見せて、あいつが驚いた隙に逃げてきた」 如月さんは、いきなり自分のスカートを捲り上げてみせた。 その下には、男物のトランクス。 「大丈夫、誰にもバレずにこの話は終わるよ。見合いの席で、女の子を部屋に連れ込もうとして逃げられたなんて、あいつだって恥ずかしくて言えないっしょ」 「そうだね」 すべてが終わったことにホッと息をついたその瞬間、私は、如月さんにしっかりと抱きしめられていた。 「翼ちゃん、笑い事じゃないよ。もし予定通りにあいつと会ってたら、翼ちゃんがあんな目に遭ってたかも知れないんだよ?」 「…あ」 「勝手にお見合いなんか決めた罰に、今日はここに一緒に泊まるからね」 耳元で囁いた如月さんが、私の首筋に熱い唇を押しつける。 「今夜は離さない」 私は答える代わりに、ゆっくりと如月さんの背中に手を回した…。 〜終わり〜
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