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□とても大切なある夏の日でした。
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『自然の風に当たるのもたまには良いだろう』


今日、そんなロジャーの一言でここワイミーズハウスの空調設備はいっせいに活動を停止した。
太陽が照りつける真夏の真っ昼間からだ。この事態にロジャーを心底恨んだのは私だけじゃない。




夏の暑さはどうも苦手だ。


日差しに関係なく空気中に漂う夏特有の湿気、じっとしていても体中を這う汗。
これらが体に纏わりつくあの感覚が堪らなく不愉快で気持ちが悪い。


人もそう。普段からあまり人と関わることをしないが、この季節は更に人を避けたくなる。
私に話かけるな、触れるな。嫌な言い方だがこればかりは仕方がない。

それだけ私はこの夏という季節が嫌いで暑さに弱いということ。



「…何か用ですかメロ」


ほらこんな時に限って、…ニアはさも嫌そうな低い声でドアの所に立つメロに見向きもせずに言った。



「珍しいなニア、随分へばってるじゃないか」

「……うるさいですね…暑いんです、話しかけないでください」


いつもは一人この部屋でドミノタワーを制作しているニアが今日は床にぐったりと倒れている。
さすがのニアもこの暑さの中でドミノのような集中力と神経を使うものをする気にはなれないようだ。



「長袖なんてそんな暑苦しい格好をしてるのが悪いんだろ。見てるこっちが暑い」

「メロこそ、その長い髪が見ていて暑苦しいです」

「お前の髪だって同じようなもんだろ」

「うるさいですね……用がないなら帰ってくれませんか。今私、誰とも話したくないんです暑いんです」

「本当に暑いしか言わないんだな。……夏生まれのくせにだらしない」

「それとこれは関係ないでしょう。それに私は夏が嫌いです」



いつもは露骨に嫌そうな顔で睨み付けてくるくせに今日はやけに突っかかるな…。
不思議に思ったニアは体を起こし初めてメロに目を向ける。



「……今なにか隠しました?」

「は、なにが?」

「背中になにか隠しました」

「隠してなんかない」

「あぁ、そうですか」

「………今日だろ」

「はい?」

「……誕生日」

「24日…あぁそうですね」

「………………」

「なんですメロ、プレゼントでもくれるんですか?」

「だっ誰がお前なんかにやるか!!」


次の瞬間、ニアに向かってすごい勢いでなにかが飛んできた。
突然のことで避けることの出来なかったニアは顔面で思いっきりそれを受け止めた。



「ぶっ!!」

「それはっ……ロジャーからだ!僕は関係ないからな!」


一方的に早口でそう叫んだメロは少し怒ったような様子でバタバタと部屋を出て行った。




「なんなんですか…、!」


顔を擦りながら飛んできたものを拾ってみる。それは不恰好に形を歪めたチョコレートのアイスバーだった。



「下手な言い訳ですね…」


ニアはぽつりとそう呟くと包みを剥がし一口かじる。

キーンと冷たさが頭に響くのと同じに、あの纏わりつく嫌な感覚がすぅっと消えていくような気がした。


「溶けてるじゃないですか…」



まったく、意地を張らずに素直に早く渡せば良いものを。
無駄に苛々させられました。

そうしてため息をつきながらもニアの横顔はどこか嬉しそうだった。







夏もあまり悪くはないのかもしれない。







+END+



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