還る場所

□act.06 泡沫
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もしも、あの時、あの場所で、彼と出逢わなかったなら。


こんな想いに苛まれず、
ただ、国だけの事を考えて、
ただ、一国の代表として、
ただ、役目を務める事だけに、
ただ、それだけでいられたのだろうか…






















「済まない…よそ見をしていた。大丈夫か?」

「いえ!私の方こそ急いでいて周りを確認していなかったので!すみませんでしたっ」


赤い髪を大きく揺らし、怯えたように深々と頭を下げる少女。
名をメイリン・ホークと言ったか。
この少女をこんなにも間近で見たのは、これが初めての事だった。


「そんなに強張らないでくれ。気軽にしてくれて大丈夫だから」

「でも…」


瞳を柔らげ、カガリは困ったように苦笑した。
良い娘だと、思う。
可愛くて、優しい女の子。
一心に彼を想い、そうして彼の脱出に力を貸した。


「いいから。それよりも、体の方はもう大丈夫なのか?」

「あ、はい!もともとそんなに酷い傷とかでは無かったので!」

「そうか…なら良かった」


ホッと胸を撫で下ろしてカガリは言った。
ずっと案じてはいたのだが、アスラン同様にこの少女にも、己の心の弱さから会いにいく事がかなわず、人伝に聞くことで精一杯だったから。
気掛かりだった事を窺え、生まれた安堵。
しかしそれは、次の瞬間に脆くも崩れた。


「私は全然大丈夫です。それより、アスランさんの方が……」

「……アス、ラン?」

「はい。最近は大分良くはなってはいるんですけど、やっぱりまだ傷が痛むそうで…」


その名を、この少女の口から聞かされる事が、こんなにも重みを持って自分に襲い掛かるものだとは思わなかった。
鈍い刃で胸を抉られるような。
そんな鈍痛が胸をじわじわと浸水する。


「そう、か…」


からからに渇いた喉からは、スムーズに言葉を紡ぐ事が難しく。
たったこれだけしか返答を返せなかった。


「アスハ代表?何だか顔色が悪いみたいですけど…」

「え、あ、いや…」


一言、気のせいだと言えば良いのに、それさえも出来ない程何かが抜け落ちてしまった。
可愛らしく首を傾げる少女に、思わず視線を逸らしてしまう。
いつから私は、こんなにも弱くなってしまったのだろうか…




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