還る場所

□act.01 予兆
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「──カガリ!キサカさんが今アークエンジェルに…!!」

「…………え?」


アークエンジェル艦内。
艦艇へと向かうカガリのもとに、急報を知らせに駆け付けたのは双子の片割れのキラだった。
額に汗を浮かべながら乱れた呼吸のまま叫ぶ彼は、明らかに動揺しているように思えて。
カガリは自然、固唾を飲む。
何か悪い報せか──そう身構えたカガリの脳内に、徐々に浸透するのは久しい名だった。

──キサカ。

今、確かに彼はその名を言った。そして、アークエンジェルに、とも。

──キサカが、こちらに来ているのか?

けれど、ならばキラのこの焦燥はなんだと言うのだろうか。
キラの焦りが移るように、カガリの胸が騒ぎ出す。
続けざまに、キラが切迫した声を張り上げて。

「カガリっ、アスランが……!!」

紡がれたその名に、カガリの心臓は激しく脈打った。

「アスランが今っ、意識不明のまま運ばれてっ…!!」






「キサカっ!」


キラと共に通路を駆けていたカガリは、個室前でマリューと言葉を交すキサカを見付けるなり勢いよく声を発した。


「あいつは…!?」

「久しく会ったのに挨拶もなしか?忙しい気質なのは相変わらずだな」

「…え、あ」


肩を竦めた彼に指摘され、カガリは思わず口ごもる。


「まぁ気持ちは分かるがな。──彼はこの中だ」


バツが悪くなって言葉を詰まらせれば、キサカが僅かに口角ををあげる。
ふっ、と息を零した彼から、入れと言わんばかりに促され、カガリはドアの前で激しく脈打つ胸を押さえた。

この部屋にアスランが……

緊張して強張る体を叱咤して、隣に佇むキラにちらりと視線を向ける。
励ますように頷くキラに、カガリもまた頷き返し、部屋の中へと一歩を踏み出した。


いつもと変わらず白で統一された室内には、やはりいつもと変わらず簡素な寝台が配置されていた。
昨日と何一つ変わない室内には、しかし、決定的に異なるその空間。
並べられた寝台。その内の一つに、藍の色を目にした時、カガリの喉からは嗚咽が漏れた。



「…っ……!」


アスラン……!


会いたくて会いたくて堪らなかった反面、けれども会うのが怖かった人。
どうすることも出来ないままユウナとの結婚に頷き、裏切った自分を彼はどう思っただろうか?
首長達の言い分に負け、誤った同盟を締結してしまった自分を、彼は軽蔑したのでは無いだろうか?

全てが怖かった。

でも、それでも。


「あす…ら……」


そっ…と、震える指先で彼の傷だらけの頬へと触れる。


「…ふっ……っ…」


指先に温もりを感じた途端、極限まで涙の溜まったカガリの瞳からは大粒の涙がポロポロと零れ出す。


──生きている。


その事に、心の底から安堵する。


生きて、また会えた……


今は、それが何よりも嬉しかった。


その時。



「……ん……」


不意に後方から漏れる弱々しい声。
並べられた寝台の一つに、その華奢な姿はあった。
彼と同じく瞳を閉じ、寝台に眠る赤毛の少女。
その少女には見覚えがあった。



「あのこは………」







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